シンドラーエレベータ(シンドラー社)で保守点検を担当していた元社員が、集合住宅のエレベーターをわざと停止させていたことが発覚した。同社は8月下旬、元社員を威力業務妨害の疑いで刑事告訴した。
国土交通省によると、元社員は今年6月から8月にかけて、東京都や千葉県内にあるUR都市機構の集合住宅で、故意に安全装置を作動させるなどして、計7回エレベーターを停止させた。それぞれ、住民ら男女計7人が1人ずつ閉じ込められた。報道によると、45分間もエレベーター内に閉じ込められ、気分が悪くなり、救急搬送された女性もいたという。
8月2日に茨城県内のホテルで元社員本人がエレベーターに閉じ込められる事案があり、不自然な点があったことから、同社が調査をしたところ、元社員が関与を認めた。「会社とトラブルがあり、困らせようと思った」と話したという。発覚後、元社員は懲戒解雇されている。
今回、シンドラー社は、原因調査などの対応に追われたとして、元社員を業務妨害で刑事告訴し、警視庁に受理された。エレベーターに閉じ込められた住民に対する行為は罪に問われないのだろうか。岩井羊一弁護士に聞いた。
●「監禁罪」や「監禁致傷罪」が成立する可能性も
「報道されていることが事実だとすれば、元社員には、会社に対する威力業務妨害罪のほかにも罪が成立する可能性があります」
岩井弁護士はこう説明する。どんな罪が考えられるのだろうか。
「まず今回のように、エレベーターを故意に止めるという行為によって、会社の保守点検業務を妨げた場合、威力業務妨害罪が成立します。
また、人が乗っているエレベーターを操作して、エレベーターから出ることを不能にした場合、監禁罪が成立します。
さらに、閉じ込められた人が気分を悪くした場合、監禁が原因であれば監禁致傷罪が成立する可能性もあります。
なお、監禁罪が成立するためには、ある程度の時間の継続が必要で、瞬時の拘束だけだった場合は暴行罪になります」
それぞれ、どのような刑罰になるのだろうか。
「業務妨害罪は、『3年以下の懲役または50万円以下の罰金』です。
監禁罪は『3カ月以上7年以下の懲役』で、監禁致傷罪まで成立すれば『3カ月以上15年以下の懲役』となり、非常に重いものになります。また、複数の事件が立件されれば、さらに重い刑を科すことも可能になります」
元社員はすでに懲戒解雇されているが、この点は考慮されるのだろうか。
「報道だけでは、監禁された時間や危険性が詳しくわかりませんが、元社員に前科がなく、懲戒解雇処分を受けて職を失っているのであれば、実際には起訴が猶予され、『不起訴処分』となる可能性もあります。
また、起訴されても実際に言い渡される刑は、執行猶予付の判決となる可能性もあるでしょう。その際、被害者や会社に謝罪して、被害を弁償しているかどうかは、処分が決まるうえでポイントになるでしょう」
岩井弁護士はこのように述べていた。