道をふさぐ違法駐車の車ほど、迷惑なものはないだろう。そんな車をつかみ、自ら「レッカー移動」する怪力おじさんを撮影した海外の動画(https://www.youtube.com/watch?v=luNGjffDjCs)がYoutubeで930万回再生されて、話題になった。
「世界最強の男」と題されたこの動画。マッチョなおじさんが、サイクリング用とみられる道に停車された車両の後部をつかんで1メートルほど動かして、道を空けた様子がうつっている。周囲の大歓声の中、自慢するでもなく颯爽と自転車で立ち去るおじさんはかっこいい。
スカッとする話だが、迷惑だからといって、勝手に車を動かしても法的に問題はないのだろうか。もし日本で同じような状況があったとしたら、どうだろうか。道路交通法に詳しい吉岡大司弁護士に聞いた。
●スカッとはするが、違法行為
「このような車両は非常に迷惑ですね。場合によっては、自転車や通行人がこの車両を避ける際に、交通事故に遭う危険もあるでしょう。この怪力おじさんが、迷惑車両を動かしたくなる気持ちや、周囲にいた人たちが歓声を上げる気持ちも理解できます。しかし、我が国の法律のもとでは、このおじさんの行為には、法的な問題があります」
どこが問題だろうか。
「まず違法駐車車両とはいえ他人の所有物ですから、これを移動させなければならない緊急性もないのに、勝手にこれを移動させることは、原則として許されないだろうということです。
また今回の動画のような『違法駐車』車両について、道路交通法51条では、警察官と交通巡査員は、運転者に対して、駐車の方法を変更、または移動を命ずることができます。警察官らはさらに自ら駐車の方法を変更したり、50メートル以内の道路上の場所に移動できます。
もし、50メートル以内に適当な場所がないときは、管轄警察署長がこの車両を50メートルを離れて移動することができます。なお、警察署長の移動の事務は、内閣府令で定める法人に委託することもできます。
逆に言えば、警察官ではない一般通行人が、こうしたことを行うことは、道交法が予定していない行為といえます。したがって、一般通行人が勝手に違法な駐停車をしている車両を動かすことは、原則として違法だと言えるでしょう」
今回の動画はサイクリング用通路に車が止められていたが、普通の道路と、扱いが異なるのだろうか。
「日本ではサイクリング用の道も多様ですから、自動車がそこに駐停車することがそもそも道路交通法に反するかどうかは、場所によって判断が分かれる可能性があります。もし、駐車が違法と評価されない場合、通行人が勝手に他人の自動車を移動する行為は、問題がより大きくなりますね」
もし、移動させる途中に壊してしまったら問題になるのか。
「過失であっても、民事上、不法行為に基づく損害賠償を免れません。さらに、『迷惑車両だから壊れても構わない』といった認識で移動させ損傷させた場合には、器物損壊罪に該当します。刑事上の責任を追及されることもあります。
たしかに怪力おじさんの行為は胸のすく思いがしますよね。しかし、違法駐停車車両が交通の妨げになっている場合、一般的には付近の道路を管轄する警察官に報告することが望ましいでしょう」
吉岡弁護士はこのように話していた。