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地下鉄サリン被害者が「オウム」のドキュメンタリー映画を制作 「教団幹部」に密着
オウム真理教をテーマにした映画を制作する、さかはらあつしさん(右)とアレフ幹部の荒木浩氏(Photo by Noriaki Matsui)

地下鉄サリン被害者が「オウム」のドキュメンタリー映画を制作 「教団幹部」に密着

いまから20年前の春。首都・東京の中心で、オウム真理教による無差別テロ「地下鉄サリン事件」が発生した。朝の通勤ラッシュの地下鉄に猛毒サリンがまかれ、13人が死亡、6000人以上が負傷した。その被害者の一人である映画監督・さかはらあつしさんが、事件から20年となる今年、オウム真理教をテーマにしたドキュメンタリー映画を撮影する。オウムの後継団体「アレフ」の幹部である荒木浩氏に密着し、オウム真理教の真実に迫る。

●20年前、サリンがまかれた車両に・・・

さかはらさんは電通社員だった1995年3月20日、地下鉄日比谷線で、サリンが散布された車両に乗り合わせた。直感的に異変を感じて隣の車両に移ったため九死に一生を得たが、その後、手足のしびれや睡眠障害といった後遺症に悩まされることになる。街を歩いているとき急に体力がなくなり、倒れ込むようにタクシーに乗り込んだこともあった。

だが、さかはらさんは「人生は何度でもやり直せる」がポリシーだ。事件からしばらくして、会社を辞めて渡米することを決断。大学院で学んでいるとき、アメリカ人の友人の映画制作にアシスタントプロデューサーとして協力したところ、その作品「おはぎ」が、カンヌ映画祭の短編映画部門でグランプリを受賞した。帰国後は、映像の専門学校で教えながら、書籍の執筆や映画の制作をてがけている。

そんなさかはらさんがドキュメンタリー映画の被写体に選んだのは、オウム真理教(現アレフ)の広報担当者として、メディア対応を一手に担ってきた荒木浩氏だ。上祐史浩元代表が教団を離れて「ひかりの輪」を立ち上げたあと、アレフの中心として信者を率いているとされる。かつては、事件後のオウム信者を追った森達也監督のドキュメンタリー映画「A」やその続編「A2」に、主要人物として登場したこともある。

今度は、オウム事件の被害者が自らも出演者となって、教団幹部をテーマにした映画を作るのだ。きっかけは一昨年の4月、飛行機に乗っていたさかはらさんが、突然意識を失い、腰椎を骨折してしまったことだ。結局、原因は分からなかったが、これもサリンの後遺症なのかもしれないと感じた。「いつまで生きていられるか分からない」。そう思ったとき、オウム真理教をテーマにした映画を作って世に問うことが、自分のやるべきことだと確信した。

さかはらさんは1966年生まれの48歳。1968年生まれの荒木氏とほぼ同世代だ。それだけでなく、関西で生まれ育ち、同じころに京都大学で学んだという共通点がある。「荒木さんと僕はパラレルワールドを生きていた」。そう語るさかはらさんは、自分ならば荒木氏がたどってきた人生の道筋を理解しやすいのではないかと考えている。「僕がやりたいのは、荒木さんの『解題』。彼が言うことをまっすぐに聞いてみて、どんな悩みを抱えているのかを理解してみたい」と、密着取材の狙いを説明する。

●クラウドファウンディングで「制作費」を募る

このドキュメンタリー映画のもう一つの特徴は、制作のための資金をインターネットを使った「クラウドファウンディング」で集めようとしている点だ。4月15日までの3カ月間で、100万円を集めることを目指す。クラウドファウンディングという手法をとったのは、「オウム真理教とは何なのか、地下鉄サリン事件とは何だったのかについて、多くの人に一緒に考えてもらいたいから」という。

映画や音楽などの創作活動を支援するクラウドファウンディングサイト「MotionGallery」には、さかはらさんの映画にかける思いが記されている。

「私は世の中の誰からもしっかりサリンガスの後遺症について理解してくれていると感じたことはありません。同じようにオウムの人々をちゃんと理解しようとしていないんじゃないか、みんな表面をなでるか、決めつけの中で用意されたことしか言っていないのではないか、そんな気がしました」

地下鉄サリン事件からまもなく20年がたとうとしているが、日本の社会はまだ、オウム真理教に集まった人々の心理をきちんと理解できていないのではないか。そう考えるさかはらさんは、さらに次のように記す。

「私は荒木さんがどうしてオウム真理教に入ったのか、サリン事件以降もどうして、アレフにいるのか、彼が被っているマスクの向こうにある『真実の荒木浩』をカメラのレンズを通じて、見つめたいと思います」

これまで1年間かけて、荒木氏をはじめとするアレフ信者に事前取材をおこない、映画制作の準備を重ねてきた。本格的な撮影は2月から開始し、節目である3月20日に向けて、荒木氏に密着取材をおこなう予定だ。「作りたいのは荒木さんと私のロードムービー」。さかはらさんの新たな挑戦が始まろうとしている。

アレフ幹部・荒木浩氏のドキュメンタリー映画の「告知動画」

http://youtu.be/YGf44p0at7w

さかはらあつしさんが荒木浩氏に取材協力を依頼した「ビデオレター」

http://youtu.be/sbIBL9BIg7w

記事冒頭の写真は、地下鉄サリン事件の起きた日比谷線の駅の前にたつ、さかはらあつしさん(右)とアレフ幹部の荒木浩氏(Photo by Noriaki Matsui)

(弁護士ドットコムニュース)

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