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「死なないこと」を約束した男子中学生 現職の警察官によるわいせつ事件、法廷で明かされたPTSD
大阪地裁( minack / PIXTA)

「死なないこと」を約束した男子中学生 現職の警察官によるわいせつ事件、法廷で明かされたPTSD

驚きのデータがある。警察庁の発表によると、令和3年に児童ポルノ事犯の検挙により特定された被害児童は、1458人(女児1301人、男児157人)にのぼる。平成24年は531人(女児466人、男児65人)だったことから、いかに被害が拡大しているか一目瞭然である。

SNSに起因し、被害につながっていることも特徴的だ(平成24年は242人、令和3年は657人)。被害総数は女児が多いものの、筆者が注目したのは、男児の被害がこの10年間で2倍もの増加を示した点である。

2022年12月、大阪地裁にて男子中学生2名が被害に遭う児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)と府青少年健全育成条例違反に問われた裁判が行われた。被告人はなんとこれらを取り締まるべき現職の男性警察官であった。(裁判ライター:普通)

●元警官による驚きの犯行態様

被告人は20代の大阪府警の元警官(起訴後に懲戒免職)。がっしりした体つきと精悍な顔立ちをしており、元警察官という肩書になんら疑問を抱かない。しかし、犯行態様とその結果は悲惨なものだ。

被告人はインスタグラムを通じて、14歳(以後、A)、15歳(以後、B)の男児に対し、それぞれ18歳未満であることを認識しながら知り合い、被告人車両内にて被害者の陰茎を口淫、手淫など行い、その様子を動画撮影していた。

Aは事件のショックから、PTSD、適応障害などと診断されたという。通院している病院と「投薬を続けること」と「死なないこと」を約束する誓約書を結んだとする検察官からの証拠から、Aに与えた大きな衝撃が伝わる。一刻も早い被害回復が望まれる。

●「なぜ、気付けなかったのか」と自らを責めるAの父

公判の最後にはAの父による意見陳述が行われた。プライバシーを守るべく設置された遮蔽措置により表情は見えなかったが、その言葉、口調から怒りを抑えきれない思いは明らかだった。

Aが自宅にていかに不安定な心境で過ごしているかを語り、そして現在にいたるまで被告人から謝罪がない点や市民の安全を守るべき警察によって家庭をメチャクチャにされたとの思いから厳罰を強く望む思いが語られた。

そのような強い口調の陳述が続く中であったが、特に印象に残ったのは「なぜ、自分はAの変化に気付けなかったのか」、「親としてごめんね」と声を小さくした場面であった。父自身も、息子を守れなかったという思いから、クリニックで睡眠導入剤を処方されるなど治療を受けているという。

●涙声でも響く「ふざけるな」の思い

情状証人として被告人の父が出廷した。スーツ姿で凛々しく立つものの、後ろ姿からも憔悴している雰囲気を感じ取れた。

被告人は逮捕直後に、事件について全容を話し、それまで家族に打ち明けていなかった性的指向を明かしたという。父は今後、被告人の携帯電話のGPSで行動と人間関係を把握し、毎週携帯電話の中をチェック、家族が信頼できる人物がいる会社に就職させ、病院で性依存症の治療を受けさせると証言した。

事件まで、被告人は「警察官として職務を全うしていると思っていた」と語る証人。その理由として、警察内で多く表彰を受けており人命救助を行ったエピソードなどが語られ、それを思い出すように証人は泣き崩れた。涙声でとても言葉にならない様子だったが、「ふざけるな。なんてことをしてくれたんだよ」という言葉は力強く法廷に響いた。

●被告人の認識と判決で認定された事実のズレ

被告人質問において、年下の未成年に性的興味があった点と、依存症を専門としているクリニックに通っていることなどを証言した。2件の事件について、Bに関しては被告人から誘ったとしたものの、Aに関しては「Aから誘ってきた」と当時を振り返りつつ、「それでも成人である私が断るべきであった」などと反省の弁を語った。

しかし、この点について検察官から指摘が入った。

検察官「未成年の児童に今回のような行為をしてはいけないのは何故だと思いますか?」  
被告人「大人と違い知識が乏しいから、同意があるかはっきりとわからないからだと思います」

検察官「先ほど『Aから誘われた』と言ってましたが、それはどういうことですか?」  
被告人「僕のプロフィール欄(同性の性的パートナーを募集する内容)を見た上で、ダイレクトメッセージを送ってきたので」

検察官「それは、あなたが募集をしていたから興味を持ったんじゃないんですか?」  
被告人「ただ、それを見て、『してほしい』と連絡をしてきたので」

検察官「性的興味と性的行為の本質は違うとは思わないのですか?」  
被告人「そこまでは考えられませんでした」

検察官「14歳や15歳が性的な意味を理解していたと思いますか?」  
被告人「相手から、『してほしい』と連絡してきたのでそう思ってしまいました」

質疑の初めには、未成年への行為の犯罪性を理解しているような答弁であったが、犯行当時は自分本位に考えてしまったということだろうか。

また、被害者に謝罪等の措置が取られていないことも指摘された。「連絡をすることで、思い出させてさらに苦しめると思った」と語るものの、代理人等へそもそも確認もしていない点が明らかとなり、この点もまた自分本位さを感じる内容であった。

判決は懲役1年6月(求刑同じ)、執行猶予3年となった。

判決文の中で裁判官は、「被告人が募集をしていたから起きた事件であり、未成年の未熟な判断に付け込んでおり、健全な心身の成長に大きな影響を与えた」と強く非難した。

【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。

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