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タクシー後部座席でわいせつ被害、スマホのメモで運転手にSOS 加害者は「金を払って示談にすればいい」と開き直り
大阪地裁(白熊 / PIXTA)

タクシー後部座席でわいせつ被害、スマホのメモで運転手にSOS 加害者は「金を払って示談にすればいい」と開き直り

犯罪被害を減らすため、刑務所では再犯防止教育、必要に応じて治療も行われている。しかし性犯罪の裁判傍聴をしていると、被告人には同じ罪に問われた前科があることも多く、どうしたら再犯は防げるのだろうかといつも思う。

「女性の胸を揉み続けることで、相手が気持ち良くなってくれると思いました」。これは、2022年10月、大阪地裁で行われた、強制わいせつ事件での被告人による取り調べ時の供述だという。一体どうしたらこんな勘違いをしてしまうのか。男が法廷で語った驚きの弁明をレポートする。(裁判ライター:普通)

●「訴えられたら金を払って示談にすればいい」

被告人は50代の会社員の男性。中肉中背で、特徴のない年相応の人物だ。まさか同種前科1犯を含め、前科が計4犯あるようには見えなかった。起訴状などによると、被告人は当時21歳の女性・Aに対し、無理やりタクシーに乗り込んだ挙句、車内で着衣の上から胸を複数回揉むなどした疑いがかけられている。スキを見て、運転手に助けを求めたことによって、タクシーはそのまま警察署に向かい、逮捕にいたった。

被告人は、「酔っ払っている人を介抱したらHできると思った」と取調で供述するなど、ナンパ目的で女性を探していた。タクシーを探していたAに対し「腰を触っても嫌がっているようには見えなかったので、拒絶されていない」と思い込み、さらに行為をエスカレートさせた。「訴えられたら金を払って示談にすればいいと思った」などとも供述しており、被害者の気持ちをまるで考えない、犯行の軽率さが伺える。

一方、Aは飲食店で飲酒をして帰る途中だった。終電を逃しタクシーを探していたところ、近づいてきた被告人からいきなり「運賃を出す」と言われた。Aは何度も断ったものの、タクシーの中にも無理やり乗り込んできて、いきなり胸を揉まれた。抵抗したら、もっと酷い暴力を振るわれると思い、強い抵抗はできなかった。涙を流しながら、自身のスマートフォンに助けを求めるメモを打ち込み、被告人のスキをみて運転手にスマホを渡し、逮捕に至ったのである。

●「アホ」と一喝した父の最後の願い

情状証人として、被告人の父親が出廷した。証人は80歳を前にしているが、豪快な口調で証言を続けた。被告人を「アホ」と呼び、「被害者に謝れ」と一喝、犯行の動機を聞かれると「酒と女が欲しかったのだろう」などと証言。

被告人の今後の監督の話になるとトーンを落ち着かせ、話を続けた。証人は一間の家で老後静かに生活しており、同居しての監督は難しい。被告人の兄弟らに頭を下げ、「父の最後の願いを聞いて欲しい」と、被告人の断酒と更生へ向けて協力を仰いだという。

それぞれで家庭を持ち、罪を重ねる被告人と距離を置いていたという兄弟だが、その父の願いに応じたという。父の思いを目前で聞いて、被告人は何を思ったのだろうか。傍聴席からはその表情はうかがえなかった。

●目の前で泣き出したのは見ているが

被告人質問では、冒頭で今回の行為を全面的に認め、謝罪を行ってから質問は始まった。犯行の原因として、ストレスと欲求不満が溜まっていたとし、酒を飲んで気が大きくなってしまったと証言した。

ただ、被害者は被告人の行為に同意してはいなかったと認める一方で、抵抗もしていなかったと譲らなかった。

弁護士「Aさんはいきなり触られて嫌な思いをしていると思いませんでしたか?」
被告人「そのときは思いませんでした」
 
弁護人「目の前で泣き出していますよね、それはどう思ったのですか?」
被告人「普段の生活で、周りに悪い人がいたりして、それで泣いているのかと思いました」

原因の一つである飲酒や性欲についてはこのようなやりとりがあった。

弁護人「今後、お酒はどうしますか?」
被告人「私も今年50歳になるので、やめさせてもらおうと思っています」
 
弁護人「『思います』ですか?」
被告人「いや、やめます」
 
弁護人「性欲について我慢できなくなった場合はどうしますか?」
被告人「以前通っていた店があるので、そこで処理しようと思います。」

その後、検察官から「なぜ今回は風俗店を利用できなかったのか」と質問があったが「閉まっていたから」と回答。では、今後同じ状況になったらどうするのか。

●裁判官の叱責と判決

今回の事件とは直接関係がないが、過去の前科について裁判官から質問された。飲酒をした上で他者の金銭を奪った疑いで有罪判決を受けていたという。

被告人は、この事件について「酒を飲んだ上での行動とはいえ申し訳なかった」とし、改めて今後は酒を飲まないと反省の弁を述べた。しかし裁判官は、「自分がしたいと思ったことをしてしまう、その意思決定が問題だ」と厳しく叱責した。

判決は懲役1年4月(未決勾留20日算入)の実刑判決であった。執行猶予を付けなかった理由について、更生のための環境が整っているとはいえないからと説明した。

【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。

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