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「死んでおけば良かった」母の遺体を放置、40代娘が法廷で繰り返した思い 床ずれから骨がはみ出し、隣人は何度も通報 
画像はイメージです(白熊 / PIXTA)

「死んでおけば良かった」母の遺体を放置、40代娘が法廷で繰り返した思い 床ずれから骨がはみ出し、隣人は何度も通報 

裁判所には、その日の裁判の予定が書かれた「開廷表」があり、傍聴人はそれを見て傍聴する裁判を決める。選択の大きな要因となるのが罪名だが、罪名だけでどのような事件、裁判かを推察するのは実際には難しい。

今回は「死体遺棄罪」の裁判を紹介する。この罪名、殺人犯が遺体を山中に遺棄するなどという凶悪な事件もあれば、生まれて間もない赤ちゃんの子を遺棄するという聞いていて辛くなるニュースもある。今年9月、大阪地裁で行われた死体遺棄事件の裁判で罪に問われたのは、亡くなった高齢の親をそのまま自宅に放置し続けた娘だった。(裁判ライター:普通)

●近隣住民も感じた異変

被告人は40代無職の女性。メガネをかけた小柄な被告人は、どこか悲壮感を抱えているように見えた。裁判では「死にたい」「死んでおけばよかった」という発言を何度か繰り返していた。

検察官の起訴状によると被告人は、自宅にて同居していた母が死亡していたのを確認しながら、死亡届の提出その他必要な措置を講じず、12日もの間、自宅に放置した疑いがかけられている。

死体検案によると、衰弱死ということでその死亡に事件性はないとされた。しかし、長期間遺棄されたことで、床ずれから骨がはみ出し、部屋の原状回復には1000万円を要するほどだった。隣人が幾度となく通報するほどの異臭が発生したが、被告人は「もう少し待って欲しい」などと取り合わなかった。最終的に被告人みずから、離れた地に住む父に連絡を取り、母の死亡を伝えた。

発覚までの期間、被告人は、匂いがしないよう上からゴミ袋をかぶせるなどしたものの、母の体を拭き、唇を湿らせるなどして、それまでと同じように生活をしていたという。警察の調べに対し、「どうしていいかわからなかった」、「もうどうにもならないと思った」と供述するなど、悪意を持った行動でなく、精神的な問題を感じさせるものであった。

●「母は自分の命より大切な人です」

被告人質問では次のようなやりとりがあった。

弁護人「今回、遺体を家にそのままにしたことについてどう思っていますか」  
被告人「葬式をあげてあげたり、役所の手続きをできずに申し訳なく思っています」

弁護人「申し訳なくというのは、どういう点でですか」  
被告人「きちんと納棺してもらうべきだと思っています。でも、私自身も死にたい思いや、体調不良などでちゃんと考えられませんでした」

その後、被告人は10年以上前にうつ病、強迫性障害と診断されたと語る。しかし、母の介護などがあり、通院できていない実態があった。今は薬を処方され落ち着いているようだが、受け答えは少しちぐはぐな部分もあった。

弁護人「あなたにとってお母さんはどのような人ですか」  
被告人「自分の命より大切な人です」

弁護人「では、今回どうすればよかったと思っていますか」  
被告人「早く入院させてあげればよかったと後悔しています」

弁護人「葬儀で送れなかったことについてはどう思っていますか」  
被告人「役所に手続きをできず申し訳ない気持ちです」

弁護人「お父さんに助けを求めることはできなかったんですか」  
被告人「これまで連絡がとれず、今回もダメだと思っていました」

はっきりとした反省や謝罪の言葉は、裁判の最後まで出てこなかった。

被告人は大学を卒業し働いていたが、介護、病気などが重なり事件当時は無職であった。母との同居は10年に及ぶ。最終的に連絡を行うなど父は健在であるが、「今回もダメと思った」という供述以上に関係性が語られることはなかった。父が情状証人として出廷することもなく、「今後連絡をとっていく」という旨の嘆願書のみが提出された。

自身の健康にも不安があるにも関わらず家族にも周囲にも頼れず、一人で問題を抱えてしまった。その結果周囲に大きな迷惑をかけてしまい、また一人でふさぎ込んでしまったように思える。被告人の、今後の社会復帰に大きな不安を感じる。

弁護人「今後の生活はどのようにしていきますか」  
被告人「紹介された、支援センターのハヤサカさん(仮名)に従います」

弁護人「今後、どこに住む予定ですか」  
被告人「まだわかりません。ハヤサカさんに従います」

弁護人「生活していくお金はありますか」  
被告人「詳しくはハヤサカさんの指示に従います」

何事も従いますとだけ繰り返す被告人に、弁護人が何度も「本当に大丈夫ですか?」と問いかけていた。

●「頼ってばかりでなく自分で動くことはできますか?」

検察官からの質問は事件の追及とは少し異なった。前科前歴もなく、精神疾患の要因が大きいと思われる事件のためか、再犯の防止、更生がきちんとなされるかにポイントを置いた。

検察官「異臭がするまで放置されてかわいそうと思いませんか」  
被告人「はい」

検察官「お母さんに申し訳ないとは」  
被告人「はい、私も一緒に死んでおいたらよかったと思っています」

検察官「そんなこと言ってないでしょ」

話は今後の話に移る。

検察官「先ほど支援センターさんの助けを借りると言ってましたね」  
被告人「はい」

検察官「不便に感じる部分もあるかもしれませんが、きちんと守れますか?」  
被告人「今は何もわかってないので、ハヤサカさんに相談します」

検察官「事件のとき、なかなか動けなかったようだけど、頼ってばかりでなく自分で動くことも発生すると思いますが」  
被告人「父に不幸があったときは、自分でしっかりしていきます」

検察官「そうじゃなくて、心配しているのはあなたのこと。他の人に頼りながらも、ちゃんと自分のことを自分で動くことができますか」  
被告人「はい」

後日宣告された判決では、懲役10月(未決勾留30日参入)執行猶予2年が下された。弔いを行わなかった死者の尊厳を傷つける行為と認定した一方で、精神疾患による原因も考慮された結果だ。

判決までの数週間で、公判審理の中で幾度と名前が出た支援センターのもとでなく、父のところへ移り住むこととしたようだ。経緯はわからないが、それが検察官が指摘した「自分で動く」という考えのもとになされた、よい結果を生み出す判断であることを心より願う。

【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にYouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。

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