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「タバコ1本ちょうだい」 喫煙所に毎日出没する迷惑な「おねだり男」、軽犯罪法で処罰されないの?
(yamasan / PIXTA)

「タバコ1本ちょうだい」 喫煙所に毎日出没する迷惑な「おねだり男」、軽犯罪法で処罰されないの?

「タバコ吸いたいんですけど、1本いただけますか?」

今日もまた「彼」がいる――。最寄駅付近の喫煙所で、毎日同じ男性にこんな声をかけられるというヨシズミさん(都内在住・30代会社員)は「辟易している」と話す。

男性は昼夜問わず、同じ喫煙所にあらわれ、一人で喫煙している人に声をかける。ヨシズミさん以外の喫煙所利用者も「迷惑でしかない」「あれは違法じゃないの」と話しているそうだ。

●喫煙所利用者「大迷惑」の「タバコくれくれ男」

喫煙所利用者は男性を「タバコくれくれ男」「おねだり男」などとよんでいる。ヨシズミさんが男性に「なぜ、いつもここにいるのか」と聞くと、「これまでは別の駅で『活動』していたが、こちらの駅のほうがよいと思った」と返された。

「なんの活動をしているのかと聞くと『自分は危険な人間ではないことを示す活動』と言われました。単に、タバコをねだっているだけにしかみえないのですが」。ヨシズミさんはあきれた様子で話す。

男性は、最初から「タバコください」とは言わずに、「いま話しかけてもいいですか?」と声をかけ、しばらく話したあとにタバコをねだることもある。断られるとその場を立ち去るものの、喫煙所にいる人が入れ替わったタイミングでまた戻ってくるという。

「中には、男性にタバコをあげてしまう人もいます。男性は、タバコを渡した人に『誤解しないでほしいのですが、タバコがほしいから声をかけたわけではないですよ』と話していましたが、誰がどう見ても、単純にタバコがほしかっただけにしかみえません。タバコも値上がりしましたし、正直、迷惑しています」(ヨシズミさん)

(ABC / PIXTA) (ABC / PIXTA)

男性のことを「こじき行為ではないか」と指摘する人もいる。軽犯罪法1条22号は「こじきをし、又はこじきをさせた者」は「拘留又は科料」に処すると規定しているが、はたして、タバコをねだる行為は違法といえるのだろうか。

●男性の発言は「人の同情心」に訴えるようなものではない

そもそも同号にいう「こじき」とは何か。

本間久雄弁護士によると、同号にいう「こじき」の意義について判示した裁判例(宇都宮簡裁昭和38年10月23日判決)があるという。同判決は、「こじき」について、次のように述べている。

「軽犯罪法にいわゆる『こじき』とは単に個々の物乞い行為(人の同情心に訴えて金品の無償交付を求める行為)自体を指すのではなく、その概念には不特定多数人に対しある程度反覆継続的に物乞いをするという云わば業的な観念が内在していると解すべき」

では、男性の行為は「こじき」行為にあたるのか。本間弁護士は、次のように説明する。

「男性は『タバコ吸いたいんですけど、1本いただけますか?』とただ単にタバコが1本ほしいと発言しているに過ぎず、その発言は人の同情心に訴えるようなもの(『困窮してここ何年もタバコを吸えていない』『そこを何とかお願いします』など)ではありません。

したがって、男性は物乞い(人の同情心に訴えて金品の無償交付を求める行為)はおこなっておらず、男性の行為は『こじき』行為には該当しません。よって、男性が同号違反に問われることはないでしょう」

(haku / PIXTA) (haku / PIXTA)

しかし、しつこくつきまとってきた場合など、別の法律に違反する可能性があると本間弁護士は指摘する。

「たとえば、軽犯罪法1条28号(「他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者」)や各都道府県の迷惑行為防止条例などに違反する可能性があります。

一例として、神奈川県迷惑行為防止条例11条は、正当な理由がないのに、特定の人に対して次のような行為を反復しておこなうことなどを禁止しています。

・つきまとい、待ち伏せし、進路に立ち塞がり、住居等の付近において見張りをし、または住居等に押しかけること(1号)
・その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、またはその知り得る状態に置くこと(2号)
・面会その他の義務のないことをおこなうことを要求すること(3号)

ただ、軽犯罪法も迷惑行為防止条例も、要件が厳しく限定されているので、成立する場合は限られるでしょう」

●「トラブルが起きるのを未然に防ぐ」

ヨシズミさんや喫煙所の利用者は、男性のことを迷惑と感じている一方、対処法に頭を抱えているという。本間弁護士は、次のようにアドバイスする。

「前述のように、男性の行為に犯罪が成立することは難しいため、警察に通報しても余程のことがない限り、対応してくれないのではないかと思います。また、警察に通報することで、男性を激高させ、予期せぬトラブルが起きるおそれがあります。

数々のトラブルを見てきた弁護士の立場からは、社会生活を営むにあたっては、トラブルが起きるのを未然に防ぐというのが一番優先すべき事由だと思います。そこで、男性が喫煙所に出没するようであれば、しばらくその喫煙所の使用を見合わせ、男性と会わないというのが一番の対処法ではないかと思います」

プロフィール

本間 久雄
本間 久雄(ほんま ひさお)弁護士 横浜関内法律事務所
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。

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