春は「卒業」の季節だ。大学を卒業できてホッとしている学生の中には、「卒業論文(卒論)代行サービスを使って、なんとか卒業できました」なんていう人もいるかもしれない。
卒論代行サービスは、その名の通り、本人の代わりに卒論を執筆するサービスだ。ある業者のサイトによると、理系・文系を問わず、1文字10円。文字数や分野にもよるが、2万字程度の卒論は2週間くらいで納品・・・とされている。
大学によっては、卒論を提出しないと卒業が認められない学部もある。重要な卒論を業者に書いてもらうことは、自分でまじめに取り組んだ人からすれば、「ズルい」行為にあたるだろう。卒論代行サービスを利用することは、「法律的に問題」といえるのだろうか。森本明宏弁護士に聞いた。
●替え玉受験が「私文書偽造罪」とされた判例
「卒論代行サービスの利用に関する法律的な問題点を検討するうえで、参考になる判例があります」
森本弁護士はこう切り出した。どんな判例だろうか。
「ある有名私立大学で起きた『替え玉受験』をめぐる判例です。
そこでは、志願者本人になりすまして受験し、答案を作成・提出した行為について、私文書偽造罪(刑法159条)が成立すると判断されました(東京高裁平成5年4月5日判決・最高裁平成6年11月29日決定)」
●「卒論代行」と「替え玉受験」は同じようなもの
その判断からすると、卒論代行サービスはどうなるのだろう?
「今回問題となる卒論代行サービスは、代行業者が学生から依頼を受け、学生名義で卒業論文を作成するもので、替え玉受験と同じようなものだと考えられます。
したがって、この判例の理論を前提とすれば、卒論代行サービス業者と依頼した学生について、『私文書偽造罪』の共犯が成立すると、法的に解釈することが可能でしょう」
このように森本弁護士は説明したうえで、次のように続ける。
「他人が文書を作成することを『なりすまし行為』と表現するならば、替え玉受験は『大学入学前』のなりすまし行為、卒論代行サービス利用は『大学卒業前』のなりすまし行為と考えることもできます。
また、卒業論文は、学生の学力到達度や卒業の可否を大学が判定するうえで重要な意味を持つ文書という点で、入学試験の答案と同様であると言うことができます」
森本弁護士は法律的な問題点をこのように指摘したうえで、「そもそも、大学生活の総決算である卒業論文を安易に代行業者に依頼することは、法律以前のモラルの問題と言えるのではないでしょうか」と苦言を呈していた。