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覚せい剤と知らず「運び屋」になってしまった「旅行客」 どんな罪に問われるのか?
空港を利用する旅行客が、思わぬ犯罪に巻き込まれることもある。

覚せい剤と知らず「運び屋」になってしまった「旅行客」 どんな罪に問われるのか?

覚せい剤の密輸がここ数年、増加している。東京税関が昨年1年間に空港や港などで押収した覚せい剤の量は、前年比24%増の約374キロで、過去10年で最も多い数字だという。摘発された118件中、92件が航空機の旅客によるもので、中でも1件当たりの押収量が5キロ以上の「大口」事案が17件と急増しているようだ。

こうした中には、旅行先で知り合った人物に頼まれて、薬物と知らずに国内に持ち込んだケースも含まれている。つまり、いつのまにか「運び屋」とされてしまう場合も少なからずあるようなのだ。

海外旅行中に見知らぬ人と仲良くなることはめずらしくないだろう。もし、他人から頼まれて、それと知らずに覚せい剤を国内に持ち込んでしまった場合、罪に問われてしまうのだろうか。守川幸男弁護士に聞いた。

●覚せい剤の「密輸」は重い罪

「海外から覚せい剤を持ち込んだ場合、問題となるのは『覚せい剤取締法違反』と『関税法違反』です。

覚せい剤取締法では、営利の目的で覚せい剤の輸入などをした場合、最高刑で無期懲役になる可能性があります。

これは裁判員裁判の対象になる重い罪です。運んだ量にもよりますが、たとえば数キログラム程度だと、10年以上の刑期を覚悟しなければなりません」

守川弁護士はこのように指摘する。重罪ということだが、荷物の中身を知らずに運んでしまった場合はどうなのだろうか。

「麻薬組織に利用され、『中身を知らずに運ばされた』という場合なら、法律違反にはならず、裁判では無罪判決となります。これは、郵便屋さんが覚せい剤と知らずに配達しても罪にならない、というのと同じです。

ただし、本人が『知らなかった』と弁明しても、本当にそうなのかについては、証拠に基づく事実認定の問題となります」

●裁判では「客観的な証拠」が重要

たしかに、本人がそう弁明するだけで「知らなかったはずだ」と認めてもらえるわけではないだろう。もし、裁判で「知っていて運んだかどうか」が問題になった際には、どんな議論が行われるのだろうか。

「たとえば、だれに頼まれたのか、報酬の約束がどうなっていたのか、パスポートが偽造か、といった点が問題になります。さらに、その人の過去の渡航歴に加え、観光目的だというのに旅行の本を持ってこなかったのはなぜかとか、空港で摘発されたときの態度が不自然でなかったかなど、さまざまな点が問題とされます。

検察官はこういった、あらゆる客観的証拠をもとに、被告人が『知っていた』ことを立証しようとします。弁護側は、その立証が成功しないように努力するわけですが、証人が海外にいるケースも多く、簡単ではありません。

なお、覚せい剤とはっきりわかっていなくとも、覚せい剤を含む違法薬物と知っていれば、有罪です。また、違法薬物らしいが、それでもかまわないと思っていたら、やはり有罪です」

このような争いは、それを裁く側の負担も大きそうだ。守川弁護士は「こうした事実認定は複雑で、非常にむずかしい問題です。こうしたケースでは、裁判員裁判が導入されてから無罪判決が増えており、不起訴事例も増えているようです」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

守川 幸男
守川 幸男(もりかわ ゆきお)弁護士 千葉中央法律事務所
千葉県弁護士会元会長。そのときの情勢と要請に応じて、社会的弱者や被害者の立場で何でも取扱う。主な取り扱いは労働事件や交通事故、債務整理等。

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