人気お笑いコンビ「爆笑問題」の田中裕二さんがTBSラジオの番組(2月5日放送)で、ファンにひどくムカついたというエピソードを披露し、ネット上で話題になっている。あるファンの態度について、田中さんは「脅迫といえるから絶対に許しちゃいけない」と批判したのだ。
田中さんのラジオでの発言によると、テレビの生放送番組の放送直前、中継現場で待機しているときに、一人の女性ファンからサインをしつこくねだられた。しかし、その場に筆記用具がなく、時間も差し迫っていたため、田中さんは「(サインは)後でね」と断った。すると、そのファンは「わかった。じゃあ、ネットに書く」と宣言したのだという。
ラジオで田中さんは「絶対に許しちゃいけないと思う。今の世の中、それって脅迫にして良いと思うんですよ」と持論を展開。さらに、「仕事がなくなったり、スポンサーが外れたりとかありえるじゃない」と苛立ちながら話した。
たしかに田中さんが言うように、人気商売の芸能人にとって、ファンからの「ネットに書く」という一言は、ある種の「脅し文句」とも言えるかもしれない。では、刑法上の「脅迫罪」にはあたるのだろうか。刑事事件にくわしい布施正樹弁護士に聞いた。
●「あなたの名誉を害するぞ」と伝えているかどうかが問題
「まず、脅迫罪は、『生命、身体、自由、名誉または財産に対し、害を加える旨』を告知して、人を脅迫することによって成立します。今回のケースでは、女性の『ネットに書く』という発言が、田中さんの『名誉』に対して害を加えるぞ、と告知したと言えるかどうかが、問題になるでしょう」
脅迫罪が成立するか否かは、この女性ファンの発言の趣旨しだいということだろうか。
「そうです。もし、女性が、田中さんを誹謗中傷するような内容を書く、という趣旨で発言していたとしましょう。この場合は、名誉に対する加害を告知したとして、脅迫罪が成立する可能性があります」
単に「サインを求めたが断られた」という事実だけを書き込むつもりで発言したのなら、どうだろう。
「その場合なら、脅迫罪の成立は、微妙なところです。そもそも芸能人は、ファンにサインをする義務はありません。この点は社会一般でも共通の認識でしょう。
ですから、仮にサインを断ったことが、ネットへの書き込みで明らかになっても、それだけで、田中さんの『名誉』が害されることになると言えるかは疑問です」
このように布施弁護士は説明する。
「いずれにしても、明らかになっているやり取りだけでは、はっきりしたことまでは分かりません。そのため、この女性の『ネットに書く』という発言だけをもって、脅迫罪に問うことは難しいように感じます」
どうやら、「ネットに書く」といった短くて抽象的な発言について、「脅迫」だと断言するのは困難なようだ。とはいえ、ファンの側も、芸能人を直接目にする機会があったときは、節度を守って行動したいものだ。