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2019年12月24日 09時48分

痴漢冤罪の責任は、女性にあるのか? まず目を向けるべきは「ずさんな捜査」の問題だ

出口絢 出口絢
痴漢冤罪の責任は、女性にあるのか? まず目を向けるべきは「ずさんな捜査」の問題だ
牧野さん(2019年12月、弁護士ドットコム撮影、東京都)

「気をつけなあかんのは、痴漢の冤罪や」。12月8日に放送された『THE MANZAI 2019 マスターズ』(フジテレビ系)で、お笑いコンビ・NON STYLEが披露した電車内トラブルについての漫才が批判を浴びている。

ツイッターでは、「痴漢された人が言い出しにくくなっていく」、「面白いって笑える人も多いぐらいに日本の性被害への認識が薄い」といった反発の声も見られた。

同じ性犯罪でも「レイプ」であったら、漫才のネタにされるだろうか。こんな風にして、2019年においても、痴漢に関する話は「娯楽」として消費されている。性犯罪なのにこのように軽く扱われる現状をどう捉えたらいいのだろうか。

●「痴漢について共有された知識がない」

「痴漢がなければ、冤罪もない。痴漢を娯楽にする文化がなければ、性暴力である痴漢被害について、もっと社会は考えてきたはずだ」

こう話すのは、このほど『痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学』(エトセトラブックス)を出版した、龍谷大学犯罪学研究センター博士研究員の牧野雅子さんだ。

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戦後から現在に至るまで、痴漢などに関する約1万3000件の新聞記事と約2150件の雑誌記事を分析し、3年かけて「痴漢はどう語られてきたのか」を読み解いた。痴漢についてのまとまった先行研究はなかったという。

「痴漢と思えば冤罪を連想するかもしれないが、今の若い人たちは、かつて社会で痴漢がどう語られていたのかを知らない。痴漢について共有された知識がなく、建設的な議論ができていないように感じた。今ある問題は、かつての男性が作ってきた『文化』なんです」

●痴漢冤罪は「警察や検察のずさんな捜査が問題」

痴漢は明治時代の新聞でもすでに社会問題として取り上げられていた。1970年代以降になると、男性誌では「痴漢のテクニック」が公然と共有される一方で、女性誌では、痴漢被害や対処法を共有する記事が並ぶようになる。

たとえば、1975年6月26日の『週刊現代』には、「これから増えるチカンの手口」として電車の中の「お尻撫で」「オッパイさわり」くらいなら「さわぐほうがおかしいといってもよいのではなかろうか」という記述がある。

なぜ、当時問題にならなかったのだろうか。牧野さんは「社会全体が、性暴力に寛容だったわけではない。女性はずっと嫌だと言っていたけど、その声を打ち消すほどの記事量と社会的圧力があった」とよむ。

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2000年にあいついで痴漢事件で無罪判決が報道されたことで、男性誌には一転して痴漢冤罪に関する記事が増えていく。週刊誌では「一度痴漢に間違われたら、終わり」など、男性が痴漢に間違われることを「被害者」と捉える記事が出てきた。

しかし、痴漢冤罪について牧野さんは「痴漢事件の無罪判決の多くは、別人を犯人と誤認したもの」と指摘する。女性が痴漢被害を受けたこと自体は、事実だ。

「痴漢冤罪の問題は、警察や検察のずさんな捜査が問題であり、女性のせいにすることは捜査機関の問題を正当化することに繋がっています」

無罪判決を受け、警察庁は2009年に通達を出し、痴漢事件については捜査員が現認して検挙するかたちを推奨している。しかし、複数の警察官が犯行を確認したとされるケースでも、冤罪は起きているという。

「捜査が悪いのに、『女性が悪い』としか扱われない。女性叩きのために痴漢冤罪が利用されている。女性は被害そのものを疑われて、主張する立場を奪われているんです」

●痴漢事件の統計、被害届出数は不明のまま

著書では、痴漢統計の不備や捜査の問題にもきりこむ。

痴漢事件の多くは迷惑防止条例が適用されるが、特別法犯のため、犯罪統計には検挙件数しかあらわれず、被害届出数は明らかにされていない。牧野さんは「きちんとした統計がなされていないこと自体が、痴漢を軽視している」と憤る。

さらに、痴漢を取り締まる迷惑防止条例の要件には、「著しく羞恥させ」といった「羞恥要件」がある。そのため、捜査では被害者の「羞恥心」が作り出される。牧野さんはいう。

「条文そのものも警察の思い込みから立案されているのに、取り調べもそれに沿って行われている。加害者だけでなく被害者も、痴漢捜査の物語に沿うように供述させられていることに多くの人が思い至らない。性被害についての条例がこれでいいのか、議論されたこともないのが現状なんです」

同書では、先ほどの『週刊現代』の事例のほか、「’’刺激待ち’’の女性側にも責任」、「スレスレ痴漢法」など当時の「痴漢特集」がたくさん引用されている。

若い読者からは「地獄」、「しんどかった」という声が寄せられる一方、50代以上の女性からは「痛快」という感想をもらうそうだ。牧野さんはこの世代間ギャップに、社会の変化も感じている。

「痴漢をはじめとして、性被害とか、性差別の問題でおかしいと思っていながら、なぜおかしいかをうまく説明できなくて、悔しい思いをしている女性にまず読んでほしい。あなたの違和感が正しいというのを伝えられたらと思っています」

【プロフィール】牧野雅子(まきの・まさこ)。1967年、富山県生まれ。龍谷大学犯罪学研究センター博士研究員。警察官として勤めたのち、 京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(人間・環境学)。 専門は、社会学、ジェンダー研究。 著書に、『刑事司法とジェンダー』(インパクト出版会)などがある。

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