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覚せい剤の売人、強盗致傷…元非行少年たちが「アットホーム」な集団生活で「人生やり直し」
川崎涼さん(11月14日、弁護士ドットコム撮影)

覚せい剤の売人、強盗致傷…元非行少年たちが「アットホーム」な集団生活で「人生やり直し」

非行に走り、少年院に入った少年たちの「生き直し」を支援する団体がある。「自立準備ホーム」の認定を受けているNPO法人「クラージュ」(東京都)だ。

「クラージュ」(フランス語で「勇気」)では、少年院を出た少年や青年たちに住む場所を提供したり、就労支援やメンタルケアをおこなったりしている。名称には「少年たちが将来遭遇するであろう困難に打ち勝つための勇気を持ってほしい」という思いが込められているという。

「クラージュ」で日々を過ごす少年や元寮生たちに話を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・吉田緑)

●「ふだんの生活が楽しいので、『頑張ろう』と思える」

少年たちは東京都中野区にある寮「至誠館」で生活する。「至誠館」は、「誠を尽くせば、願いは天に通じる」という意味の吉田松陰の言葉「至誠通天」からつけられた名称だ。部屋はすべて個室。定員は20人ほどだ。

専務理事の室田斉さんは「ここでのルールは『警察につかまらないこと。寮に女性を連れ込まないこと』のみです。それ以外は自分たちで決めます」と話す。

〜かつては覚せい剤の売人も...今では「寮長」として仲間にアドバイス〜

「至誠館」には寮長もいる。少年たちの中から選ばれ、年数や仲間からの信用によって決まるという。

現在、寮長を務めるのは、川崎涼さん(23)だ。「クラージュ」につながってから4年。現在はリフォーム会社で営業の仕事をしながら、仕事や日常生活に関する仲間の悩みを聞いたり、アドバイスをしたりする。

茨城県出身の川崎さんは、強盗致傷で逮捕されて少年院に入った。それ以前も覚せい剤の売人や、右翼団体に入った経験もある。

その川崎さんが「クラージュ」と接点を持ったのは、少年院を出た後のことだった。

「地元に戻れば、悪いことばかりしてしまう。ここで頑張ろう」。少年院の勧めで訪れたときにそう決意し、「生き直し」の道を歩む仲間たちとの生活を始めた。

「仕事をすることは最初しんどいと思いました。でも、一生懸命やっていれば上司も教えてくれますし、何よりふだんの生活が楽しいので、『頑張ろう』と思えます」(川崎さん)

寮での生活について、川崎さんは「1人で部屋にいることは少ないですね。みんな寂しがり屋なので、休みの日もみんなで遊びます」と語った。離れた場所に暮らす家族とは、良好な関係を築いている。

●仕事に遊びに大忙し「気づいたら、悪いことをしない生活に」

少年たちは、「クラージュ」と提携するリフォーム会社、建設会社、飲食店で仕事をしている。室田さんによれば、仕事だけではなく、仲間たちで遊びに行くこともあるそうだ。

「キャンピングカーで出かけたり、スキー、スノーボード、温泉に行ったりすることもあります。国内だけではなく、フィリピンなど、海外にも行きましたね」(室田さん)

仕事で疲れた後は、「クラージュ」が運営する「高円寺葡萄酒酒場ピノキオ(旧:カリテプリ)」(東京都杉並区)で仲間たちと談笑しながら、夕食を食べる。

高円寺葡萄酒酒場ピノキオ(旧:カリテプリ)の看板 高円寺葡萄酒酒場ピノキオ(旧:カリテプリ)の看板

夕食の時間には、現役の寮生だけではなく、自立した元寮生たちもやってくる。

談笑する少年たち 談笑する少年たち

〜3度の少年院...今では「犯罪をする気は起きない」〜

その1人が、設備会社で営業の仕事をしている望月優矢さん(23)だ。現在は寮から離れ、交際している女性と同棲している。

望月さんは山梨県の出身。恐喝や窃盗などで逮捕され、少年院に3回入ったことがある。

「ここは、なんでも受け入れてくれるアットホームな場所です。クラージュにつながらなければ、悪いことをしていたかもしれません」と望月さんは話す。

望月優矢さん 望月優矢さん

立ち直ってからは、過去を受け入れてくれる女性と交際を始め、家族とも良好な仲だ。仲間の相談に乗ったり、ときには「先輩」として仕事や生活面に関して指導することもある。

望月さんのブログ(「もちゆうの更生日記」https://mohiyu.com/)では、元・非行少年であることを明かし、今までの経験に基づき、非行少年や少年院の生活について発信している。

「今は犯罪をしようという気持ちはまったくありません。気づいたら悪いことをしない生活になりました。仕事や遊びが忙しすぎて、悪いことを考える暇がないんです」(望月さん)

●「少年たちにはパワーがある。彼らは『変わる』」

室田さんによると、「クラージュ」にやってくる少年は、(1)少年院が推薦する場合(親がおらず、帰る家がない場合や、近くに不良仲間がいたり、親による不適切な養育があったりして、家に帰してはいけないと判断された場合)、(2)少年本人が電話してくる場合、(3)弁護士から依頼がある場合、の3パターンがあるそうだ。

「就労意欲があり、家がなく、21歳未満であれば断りません」と室田さんは話す。希望者は全員引き取る方針だ。これまで「クラージュ」で過ごしている少年たちの再非行はないという。

「今後の目標は、ソーシャル・ファーム(非行や犯罪歴があるなど、働くうえで不利な立場にある人たちに就労支援や直接雇用を目的とする事業体)をつくることです」

少年たちからは「親父」「お父さん」などといわれている「父親役」の室田さん。ほかにも、大人たちが少年たちと関わり、生き直しをサポートしている。犬の「タケシ」もサポーターの一員だ。

犬のタケシ 犬のタケシ

もちろん、上手くいくことばかりではない。社会との向き合い方が分からないまま「クラージュ」を出ていき、再非行した少年もいる。それでも彼らを支援する理由は「少年たちにはパワーがある。彼らは『変わる』んです」という信念だ。

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