アルバイト先での「内引き」がバレてしまった。穏便に済ませると言われたが、今後どうなってしまうのかーー。弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられました。あまり聞き慣れない用語ですが、「内引き」とは、従業員が店の商品や売上金を着服することのようです。
相談者は、アパレルのアルバイトをしていて、被害額5万円程度の内引きをしてしまいました。まだ未成年であり、勤務態度にも問題なかったことから、店側からは「穏便に済ませたい」と言ってもらえたそうです。
しかし「本当に穏便に済むのか、警察へ連絡がいくことはあるのか」などと心配しています。
店側は実際どのような処分をするのでしょうか。本間久雄弁護士に聞きました。
●「窃盗罪」か「業務上横領罪」
内引きは、どのような罪に当たるでしょうか?
「相談のケースで成立する可能性があるのは、窃盗罪か業務上横領罪の2つが考えられます。
窃盗罪は、『他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する』(刑法235条)としています。業務上横領罪は、『業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する』(刑法253条)としています。
窃盗罪には、罰金刑が含まれていますので、窃盗罪と認定された方が、罪を犯した人にとって有利だと言えます」
●「占有」とはどんな状況?
窃盗罪と(業務上)横領罪はどのように区別されるのでしょうか。
「財物が自分の占有下にあるかどうかによって決せられます。つまり、自分が占有していないものを自分のものにした場合は窃盗罪が、自分が占有しているものを自分のものにした場合は横領罪が成立します」
占有とは、具体的にはどのような状況を指しますか
「一般的には、刑法上の占有は上位の者にあり、下位の者は占有を補助しているに過ぎないと解されています。判例を見てみると、倉庫係が倉庫内の品物を持ち出した場合や車掌が乗務中の貨物列車内の貨物を領得(りょうとく=不当に自分のものにすること)した場合は、占有は会社にあるとして、倉庫係・車掌の占有を認めませんでした(従って、いずれも窃盗罪が成立します)」
●「警察に通報しないケースも多く見受けられる」
では今回のケースでは、どう考えられますか。
「内引きをする者は、多くの場合一般の店員だと考えられることから、商品の占有は、店側にありますので、窃盗罪が成立することになります」
被害額5万円と少額とはいいがたいように思えますが、店側は具体的にはどのような対応をとることが考えられますか。
「店側としては、警察に通報する、損害賠償請求をする、懲戒処分を行うという対応をとることができます。
相談のケースでは、未成年者が内引きをしたことから、店側が警察に通報したときは、捜査が行われた後、家庭裁判所に事件が送致され、本人の前歴や反省態度、被害弁償の有無等によって、少年審判不開始、(少年審判が開かれても)不処分、少年院送致・保護観察などの保護処分が行われることになります。
少年事件の場合、成人の場合と違って、原則として懲役刑や罰金刑が下されることはありません。ただ、店側が警察に通報して処分を求めるとなると事情聴取等に多くの時間を取られますので、現実には警察に通報しないケースも多く見受けられます」
●懲戒処分の可能性は?
懲戒処分はあり得るのでしょうか。
「店員が品物を盗むことは、懲戒解雇相当の非違行為(違法行為)だと言えます。
ただ、懲戒解雇をするとなると、弁明の機会を与えるなどのしっかりとした手続を踏まなければなりません。また、解雇予告手当を払わないならば、労働基準監督署に除外認定申請をしなければならず、後で争われたときに備えて書類を整えておくなど検討することが多く中々大変です。そもそも、就業規則に懲戒規程がなければ懲戒解雇をすることはできません。
今回のケースでは、店側が穏便に済ましたいと言っていることから、店側は、警察に通報せず、店員から盗んだ品物の損害賠償をしてもらった上で自主退職をしてもらおうと考えているのではないかと考えられます」