少年法
2014年08月16日 16時19分

佐世保女子高生殺害「報道」のナゾ――なぜ被害者「実名」、加害者「匿名」なのか?

佐世保女子高生殺害「報道」のナゾ――なぜ被害者「実名」、加害者「匿名」なのか?
メディアでは被害者と加害者の様々な情報が連日報道されている

長崎県佐世保市で7月下旬、高校1年生の女子生徒が殺害された事件。加害者として逮捕された少女(16)の生い立ちや家庭環境などの様々な情報が、連日メディアで報道されている。ただし、加害生徒が「具体的に誰なのか」を、テレビや新聞は報道していない。

他方で、被害生徒の実名や顔写真は、テレビ・新聞でも広く報道されている。ネット上では、「被害者も未成年なのに、毎日実名、顔写真、殺害方法まで晒されて、なぜ加害者は匿名で守られてるのか」「被害者にはプライバシーは無いの?」といった声があがっている。

今回のような事件で、なぜ「被害者が誰か」は大々的に報道されるのに、「加害者が誰か」は報道されないのだろうか。少年事件にくわしい中田憲悟弁護士に聞いた。

●加害者少年を守る「少年法61条」

「少年法61条は、『氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない』と規定しています。こうした情報を『個人識別情報』といいます。

少年法61条は、少年の名誉やプライバシーを保護するというだけでなく、将来の更生や成長発達に、世間の偏見が悪影響を及ぼすことを防ぐための規定です」

少年の未熟さや、更生への悪影響などを総合考慮したうえでのルールというわけだ。しかし、そのルールは、「国民の知る権利」や「報道の自由」などの権利を、必要以上に制限しているのではないだろうか?

「少年犯罪に関して、報道が果たすべき役割は、まず、刑事手続が適正に行われているかを監視することです。そして、犯罪の背景・原因に迫ることで、『問題解決に向けて社会が何をすべきか』考える材料を提示することです。

こうした役割を果たすために、少年の個人識別情報を報道する必要はありません。報道の自由を不合理に制約するとは言えないでしょう」

●「被害者少年」に関するルールは?

一方で、被害者少年をめぐる報道については、何かルールがあるのだろうか。

「被害者の名前を報道しないように規制する法律はありません。現状は、被害者側から、警察や報道機関に対して『個人識別情報の報道をしないでください』と要請した場合に、例外的に報道を『自粛する』という状態になっています。

私見ですが、『被害者少年』についても、本人もしくは遺族の了解が得られない限り、個人識別情報の報道を控えるべきだと思います。

その理由は、被害者が少年・少女の場合、報道に晒されることによって、将来の成長に悪影響を受けるからです。これは、特に性被害の場合を考えれば、容易に想像できるでしょう」

本人が亡くなったケースだと意見が分かれそうだが、性被害を受けた少年・少女の名前を報道することは大きな問題だろう。被害者の少年・少女の名前が報道されないようにするための「法律」はないのだろうか。

「平成19年の改正で追加された刑事訴訟法290条の2という規定があります。しかし、この規定は、あくまでも『公開の法廷』で、被害者の特定事項を明らかにしないと定めた規定です。少年法61条のように、報道機関に対する規制ではありません。

このように、直接報道機関を規制する規定の有無が、被害者・加害者双方の報道のあり方の違いとなっているのではないかと思います」

●「取材手法」にも問題がある?

「加害者側、被害者側双方ですが、犯罪と被害の背景・原因を検証し、将来の改善策につなげるために、『個人の識別情報』を、社会が必要としているとはいえないと思います」

中田弁護士は少年事件の報道について、このように締めくくったうえで、次のような指摘も加えていた。

「また、報道の前提としての取材行為にも大きな問題があります。

重大事件が発生すると、加害者・被害者本人だけでなく、多くの関係者のプライバシーまでも侵害される事態が多々生じています。

報道陣が、通行人などに対して実名や顔写真を示しながら、被害者側の家族、友人、知人を探し回るといった取材が横行しているからです。

全国的に注目される事件では、こうした取材が大々的に行われるため、たとえ匿名報道がなされても、『地元では皆が知っている』という由々しき事態となっています。このことも、考えなければならない問題だと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

はばたき法律事務所所長
広島大学法科大学院教授(実務家みなし専任)
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