車のドアにしがみついた大学生(23)を、急発進で振り落としたとして、車を運転していた東京都内の会社員男性(45)が、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。男性は警察の調べに対し、「すごい剣幕でドアにしがみついてきた。怖くなって急発進させた」と話しているという。
報道によると、逮捕された男性は11月5日午後3時50分ごろ、町田市の路上で、市内に住む大学生の男性と車の進路をめぐって口論になった。大学生が車のドアにしがみつくと、急発進して振り落とした疑いが持たれている。大学生が頭などを強く打ち、搬送先の病院で死亡したため、容疑は殺人に切り替えられたという。
このニュースに対し、ネット上では「ドアにしがみつくなんて危害加える気満々なんだし、殺人じゃなくて正当防衛」「本当に命の危機を感じるような迫り方なら無罪でいい」など、納得できないという見方が少なくない。今回のようなケースで、正当防衛は認められないのだろうか。中島宏樹弁護士に聞いた。
●正当防衛にも限度がある
「正当防衛というのは、差し迫った危険から自分や他人の権利を守るため、『やむを得ずにした行為』のことです。
正当防衛が成立すれば、違法性がないとして、無罪になります。
今回のポイントは『やむを得ずにした行為』だったかどうかです。そう言えるためには、防衛行為が必要かつ相当でなくてはなりません」
ざっくりいうと、いくら防衛といっても限度がある。やり過ぎはよくない、ということだろう。
●大ケガを負わせる可能性があった
それでは、すごい剣幕でドアにしがみいてきた大学生に恐怖を感じ、車を急発進させたというのは、どうだろうか?
「人がドアにしがみついた状態の車を急発進させれば、その人を振り落したり、車輪に巻き込んだりして、大きなケガを負わせる可能性があります。事実、大学生は車から振り落とされて頭などを打ち、搬送先で亡くなっています。
大学生は車外にいたのですから、会社員男性が身を守るためには、ゆっくりと車を発進させたり、クラクションを鳴らして警告するなど、より危険性の低い手段をとることもできたはずです。
そう考えると、いくら恐怖を感じていたといっても、『やむを得ずにした行為』というのは難しいように思えます」
たとえ、差し迫った危険があり、身を守るためにしたことでも、防衛の範囲を超えたらダメということだろう。
中島弁護士は「なお、差し迫った危険があって、防衛のためにやったことだけれども、防衛の程度を超えてしまった場合を『過剰防衛』といいます。過剰防衛は、情状により、刑が減免される可能性があります」とつけ加えていた。