名古屋市交通局は6月20日、地下鉄職員が、自動券売機の釣り銭用の「1000円札」を入れる位置に、間違って「5000円札」を補充してしまったため、お釣りを多く払いすぎるミスが起こっていたことを発表した。
発表によると、名古屋市営地下鉄安通駅の自動券売機で6月19日、職員が券売機のお釣りを補充する際、1000円札用の場所に、誤って5000円札を10枚補充してしまった。5000円札10枚すべてが1000円札の代わりに支払われたため、売上金が4万円不足することになってしまった。乗客に申し出るように呼び掛けているが、特に反応はないそうだ。
自動券売機から、本来よりも多い金額が出てきた場合、それを持ち去ることは罪に問われるのだろうか。刑事事件に詳しい神尾尊礼弁護士に聞いた。
●「釣り銭詐欺」とは異なるケース
「本件とよく似たケースで、刑法学上『釣り銭詐欺』と呼ばれる類型があります。これは、レジで釣り銭を多く受け取ったケースのことです。
『釣り銭詐欺』では、受け取るときに釣り銭が多いことに気付いた場合、詐欺罪が成立するというのが、通説的な見解です」
神尾弁護士はこのように述べる。意図的にだましたわけでもないのに、詐欺罪になるということだろうか。
「『釣り銭詐欺』の場合には、『釣り銭が多いよ』と告げるべき義務があったのに告げなかったという不作為が『だます行為』にあたると考えられています」
すると、今回のケースも券売機からお釣りが出てきた時点で「額が多すぎる」とわかっていたら、持ち去った人は、詐欺罪になるのだろうか。
「今回のケースでは、相手はレジの人ではなく機械です。機械をだますことはできません。ですから、詐欺罪は成立しません」
●窃盗罪や占有離脱物横領罪の可能性
では、今回のようなお釣りの持ち帰りは、法的には問題ないということだろうか。
「そうではないでしょう。
多すぎる釣り銭は、返さなければなりません。つまり、鉄道会社(他人)のモノです。他人のモノを持って行ってしまった場合、窃盗罪と占有離脱物横領罪の2つの罪が考えられます。
窃盗罪は、他人の占有するモノを持っていった場合に成立します。もう一方の占有離脱物横領罪は、その名のとおり、もう占有していないとみられるモノを持っていった場合に成立します」
占有とは、ある物を「事実上の支配下」に置いておくことで、物を自分の手で所持している場合が典型的なケースにあたるが、自宅に自分の所有物を置いて出かけている場合なども、その物を事実上支配しているといえるので、「占有」しているとされる。
では、今回のケースは、どう考えればいいのか。
「鉄道会社の占有が失われているか、つまり、どの時点で金額が大きいと気付くかで、成立する犯罪が変わることが考えられます。
券売機からお釣りが出てきてすぐに気付いた場合、お釣りは、まだ鉄道会社が占有していると思われますので、窃盗罪が成立する可能性があります。
他方、家に帰ってきてから気付いた場合では、鉄道会社の占有が失われたと思われますので、占有離脱物横領罪が成立する可能性があります。
鉄道会社のミスなのに犯罪になるというのは割に合わない気もしますが、気付いた時点で自主的に返すという当然の道理から来た結論と考えれば、あながちおかしな結論とまではいえないと思います。自主的に返金することをお勧めします」
神尾弁護士はこのように述べていた。