「他人から脅されて万引きしてしまった場合も、罪に問われますか?」。こんな内容の質問が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。万引きしたのは、学校に通っているA君。しかし、A君が自発的に万引きしたのではなく、お金を借りていたB君に命じられたものだったという。
返済が滞ると、B君から「金を返せないのなら物を盗んででも払え。でなければ金の事を学校で大声で話したり、お前の物を盗る」と脅され、万引きをしてしまったそうだ。その場ではみつからなかったが、良心の呵責を感じたA君は、後日お店へ謝罪に出向き、万引きした物の代金を支払った。
結局、警察に通報されずにすんだということだが、今回のように、他人に脅されて万引きした場合でも、犯罪になるのだろうか。岩井羊一弁護士に聞いた。
●万引き以外の「選択肢」があったかどうかが問題
「万引きしたことが間違いないとすると、A君には、刑法235条の『窃盗罪』が成立します」
岩井弁護士はこのように切り出した。脅された場合でも、同じことなのだろうか。
「たしかに、A君がB君の脅しに対して、万引き以外の適法な行為をとることができない事情があるなら、A君を責めることはできません。その場合は、適法行為をとる可能性がなかったとして、無罪となります。
A君はB君から『金の事を学校で大声で話したり、お前の物を盗る』と脅されたということです。しかし、この場合、万引き以外にも、家族や友人、弁護士、警察に相談するなどして、解決する方法があったのではないでしょうか。事を大きくしたくない気持ちと恐怖心があったというだけでは、無罪になる余地はないでしょう」
B君から脅されたという事情は、まったく考慮されないのだろうか?
「B君から脅されたことは、刑の重さを決めるにあたって、A君に有利に考慮される可能性はあります。
ただ、刑の重さを決めるにあたって特に重視されるのは、万引きの方法、盗った物の価値や数といった万引き自体の悪質さ、万引きした物について弁償がすんでいるかなどの事情です。脅された事情は、これらに比べれば、重視されないでしょう。
今回は脅されて『万引き』をしたという事例ですが、他の犯罪を犯していた場合でも、適法な行為をとることができなかったという事情があれば、無罪になる可能性はあります。ただ、脅されたという場合、多くは犯罪を犯さないで解決する方法があるので、無罪になる可能性は低いでしょう」
岩井弁護士はこのように述べていた。