今までもこれからも、異国の地で不安な気持ちを抱えている外国人の力に
海外での多様な経験を通じて感じた、「専門スキル」の必要性
ーー先生が弁護士を目指そうと思った経緯や、その理由を教えていただけますか。
大学生時代には全く弁護士になろうとは考えておらず、「司法試験は難しいらしい」程度の知識しかありませんでした。その頃は難民問題に関心があって、将来は海外の国連関係の機関で働きたいという気持ちが強かったです。
大学卒業後、オランダの大学院に留学し、国連や赤十字などの国際機関が、紛争や自然災害などが起きた時に、政治的、法的、衛生学的な側面からどのように対応をしているのかについて学びました。
オランダに1年ほど留学した後は、マレーシアのクアラルンプールにある赤十字国際委員会で、インターンとして勤務しました。赤十字に対して医療的なイメージを持たれる方は多いと思うのですが、実はそれだけではなく、紛争下で守るべきルールを国際的に普及する役割も担っています。
日本に帰国してからも、日本赤十字社の嘱託職員として働きました。当時の日本赤十字社の国際活動としては、災害時の救援活動であったり、日本在住の行方不明になった外国人の捜索であったり、多岐にわたる活動を行っていました。
ーー帰国後は、内閣府国際平和協力本部事務局でも働いているのですね。
はい、研究員という肩書で働いていました。
仕事内容は、海外で行われる選挙の監視をしたり、自衛隊の海外PKO派遣の調査活動をしたりというものでしたね。こういった仕事が、いつか国際機関等で働く際に役立つかもしれないと考えていました。
南スーダンの独立を問う住民投票の監視のために、スーダンに飛んだこともありました。国が独立する瞬間を目の当たりにでき、非常に充実した日々でした。
そうした充実した日々を送りつつも、「自分には専門的知識が圧倒的に足りない」という葛藤も感じていました。海外で「これが私の専門です」と胸を張って言えるスキルを日本で身に着けておきたい。これまで国際法を学んできたことを生かして弁護士を目指すため、ロースクール進学を決めました。
大学で国際法を学んだことはありましたが、それ以外の法律については全くの素人だったので、非常に大変でしたね。勉強漬けの毎日でした。当時は、司法試験のことしか頭になかったです。
弁護士になる前に少しでも経験を積んでいきたいという思いから、外国人事件を扱う弁護士のネットワークである「外国人ローヤリングネットワーク(LNF)」の事務局で、受験勉強の傍ら、アルバイトもしましたね。幸い司法試験は1回で合格できました。
ーー弁護士になって注力している分野は何でしょうか。
現在、多く扱っているのはビザに関する案件や、外国人が関係する家事事件です。
当たり前ですが、非常に責任の重い職業だと思います。重要なことを判断しなければならない機会が多いし、地味な事務作業もたくさんあります。でも、非常にやりがいがある仕事です。
ーー仕事をする上で心がけていることは何でしょうか。
外国人事件では、法律の内容や裁判の手続が、日本と依頼者の母国では全く異なることが少なくありません。その違いを理解してもらえるよう、ひとつひとつ詳しく、丁寧に説明するようにしていますね。
また、こまめに連絡をとることを心がけています。常に依頼者の意思を確認し、納得してもらったうえで事件処理を進めていくようにしています。
自身も海外で感じた心細さ「依頼者の気持ちが分かるからこそ、少しでも力になりたい」
――先生が弁護士として活動してきたなかで、印象的なエピソードはありますか。
あるフィリピン人の子どもの在留資格を得るために奔走したことを印象深く覚えています。
その子どもは、母親と祖母と一緒に日本で暮らしていましたが、あるとき母親が恋人をつくり、子どもと祖母を置いてアメリカに渡ってしまいました。
通常、子どもの在留資格は親に紐づいているので、母親がいなくなってしまうと、子どもの在留資格も失われます。依頼者である祖母は、入管から「(子どもは)もうフィリピンに帰るしかない」と言われていました。
でも、帰国しても子どもの面倒をみてくれる人は誰もいません。そこで私のもとに相談にきたのでした。
私は、子どもの親権を母親から祖母に移せば、日本に居続けることができるのではないかと考えました。手続きはフィリピン法に基づく必要がありました。フィリピン法の親権に関する規定を丹念に調べ、どうにか親権者を祖母に変更できる方法を見つけたんです。
裁判所に親権者の変更を申し立て、無事に祖母を親権者にすることができました。その結果、子どもは日本での在留資格を得て、今も日本で暮らしています。
その子どもからもらった感謝の手紙は、今でも大切に私のデスクの前に飾ってあります。
ーー休日の過ごし方や趣味を教えていただけますか。
まだ生まれたばかりの子どもがいるので、家庭中心で過ごしていますね。平日も、夜7時までには家に帰って、子どもをお風呂に入れるようにしています。
趣味は、山登りですね。ロースクールに通っていた頃から始めました。弁護士会の山岳部にも所属しています。子どもがもう少し大きくなったら、一緒に登りたいですね。
ーー先生の弁護士としての今後の展望をお聞かせください。
引き続き、外国人事件に力を注いでいきたいと思っています。
個人の事件だけでなく、入管行政にも働きかけていきたいと考えています。日本にいる外国人の方々の人権を守っていくことに尽力していきたいですね。
外国人の方は、ただでさえ異国で生活する上での不安を抱えています。トラブルの中にいるなら、なおさらでしょう。私自身も、海外にいるとき非常に心細さを感じていました。依頼者の気持ちが身をもって分かるからこそ、少しでもその不安を解消できるよう力になりたいですね。
――法律トラブルを抱えて悩んでおられる方に、メッセージをお願いします。
最近、インターネットなどで情報を得ることが簡単にできるようになっています。私たち弁護士も参考にする時がありますし、相談に来てくださる方も事前に調べてこられるケースが増えています。
しかし、インターネットで調べただけで「無理なんだ」とあきらめてしまうのは早計です。ぜひ弁護士に相談に来てください。無理だと思っていたことを解決する糸口が見つかるかもしれません。