
徳田 万里子 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
大学在学中に文化人類学のゼミで戦後補償の調査に関わった際、女性運動家やノンフィクション作家、ジャーナリスト、弁護士といった、不合理から目をそらさず、声なき声を代弁するために奔走する人たちと出会い、影響を受けました。
卒業後は、一旦銀行の総合職として就職する途を選びましたが、その後も身近で労働問題、建築瑕疵、障害者の人権等、何かと人権問題に接する機会があり、ささやかな日常において起こりうる様々な不合理に対し、自分も自らの思うところの正義に従って発言し行動することができる職業に就きたいと、ゼロから司法試験を目指すことを決意しました。
今までの経験と現在の仕事内容
今までには、離婚、相続、成年後見、交通事故(被害者側)、債務整理、刑事事件、少年事件、外国人事件(難民事件等)、消費者被害に関わる事件、労働問題、などをしてきました。
なかでも交通事故の被害者側は比較的多く手掛けています。特に高次脳機能障害など高度障害を負われた方の事件については、正当な賠償が受けられるよう治療の段階から長期的に関わることが多いです。
また少し特殊な事案としては、他の先輩弁護士と5年越しでかかわっている難民事件でしょうか。他の一般民事や刑事とは異なった視点を与えてくれとても勉強になります。学生時代には国連の仕事をしたいと思っていた時期もあるので、こんな形で弁護士として難民事件に関わることにはそれなりに意義を感じています。
遠い国で起きている事ですが、日本の国のあり方などにも深く関わっていて、日本を違う角度から見ることができます。遠い国の問題だから関係ないと思わず一般の方々にも関心をもって欲しいと思います。
仕事の上で意識していること
意識していることは、3つあります。
1つ目は、依頼者の気持ちに寄り添い、声にならない声をできるだけ汲み取ることです。依頼者の方は必ずしも自分の思いを言葉で表現することが得意な方ばかりではありません。むしろ、紛争の根幹にかかわる問題点がどこにあるのか混乱されていたり、様々な感情を整理できないで苦しんでいる方もいます。
また、声の大きい人が得をする時代、何かおかしい、不合理だという思いはあっても、それを声にできないで抱えられている方もいます。
そんな方々の、思いや声を少しでもくみ取り、不合理を是正するための何らかのお力になれればという思いで依頼者の方とは接するようにしています。
2つ目は、依頼者に共感はしても一体化せず、最終的には自分の思うところの社会的「正義」に適うような仕事の仕方をするということです。依頼者の方と一体化して怒りや悲しみを煽ったり、依頼者の要望だから何でも従うというのでは結局依頼者にとっても良い結果を生みません。
弁護士として長期的に見て紛争解決のためにより良いと思われる手段や到達点を冷静に吟味し、最終的な結果には依頼者にも納得してもらえるよう丁寧に説明をするようにしています。
3つ目は、事件の大小に関わらず、丁寧にコツコツとやること。結局それが依頼者との信頼関係構築につながりますし、弁護士としての私を育ててくれるような気がします。
関心のある分野
自分が出会う事件ごとに社会の不合理さや理不尽さに直面し、関心事項が増えます。最近は「触法障害者の処遇の問題」に関心があります。
「触法障害者の処遇の問題」とは、知的や精神に障害のある人が、その障害故に貧困に陥り、窃盗などの犯罪を犯してしまった場合に、福祉的な視点を持たずにただ刑事処罰をしても、またいずれ社会に放り出されれば犯罪を繰り返さざるを得ないという“悪循環の問題”です。
仕事をしていると、このような「極悪人」ではなく、社会からつまはじきにされているような本当の意味での「弱者」というべき人に出くわすことがままあり、司法にできることの限界や国の仕組みに疑問を感じながら、いち刑事弁護人としてできることを模索しています。