鬼頭 治雄 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
大学時代に冤罪事件を勉強するゼミナールに入り、このような事件の刑事弁護をやりたいと思うようになったからです。
今までの経験と現在の仕事内容
刑事弁護を多く手がけています。民事弁護で比較的多いのは、不動産管理や農地に関する仕事です。また、弁護士会の色々な委員会活動もしています。
刑事弁護では、公判前整理手続に付された事件や裁判員裁判を比較的多く担当してきました。また、再審事件では、弁護士登録当初から名張毒ぶどう酒事件の弁護団に入っています。ここでは毎月、弁護団会議に出席し、裁判所に提出する新証拠の準備や書面の作成を検討しています。
名張毒ぶどう酒事件は、1961年の事件ですが、52年経った2013年3月、最高裁に特別抗告審がかかっています。2007年に名古屋高裁が再審開始決定を出し、翌年、開始決定が取り消され、2010年には最高裁がその取消決定をさらに取り消し、事件を差し戻しました。そして、2012年、名古屋高裁が再審を棄却し、弁護団が特別抗告を申し立てるという経過を辿っています。
2012年末、名古屋高裁の決定の誤りを明らかにする証拠を提出し、今は最高裁に早期の再審開始決定を求めているところです。
名張毒ぶどう酒事件に限らず、冤罪が生まれる要因の一つは、捜査機関の入手した全ての証拠が弁護人に開示されないということだと思います。2004年の法改正で公判前整理手続が導入され、不十分ながら証拠開示の制度が法律で定められました。
これによって、ある程度、検察官の手持ち証拠が開示されるようになりましたが、まだまだ十分とは言えません。ですから、残念ながら、今後も証拠開示がなされなかったことによって冤罪は生まれてしまうと思います。
民事弁護については、特に農業に関連する法律問題に関心があります。農地法に関係する事件が中心ですが、具体的には、農地の相続や賃貸借、農作物の流通・販売に関する問題などです。農業は弁護士がこれまであまり関わってこなかった分野のようですが、これから先、社会にとって一層重要な分野になるはずで、個人的にも注目しています。
農家がどのようなことに関心を持っているのかを知り、農業に関する経理や経営についても勉強したいと思い、農業経営アドバイザーという資格を取得しました。弁護士では珍しいようです。
最後に弁護士会活動についてお話しします。私は色々な委員会に所属していますが、一番長く関わっているのは刑事弁護委員会です。刑事弁護委員会では様々な活動をしていますが、裁判員制度の運用に関する裁判所や検察庁との折衝は特に重要だと思います。個々の弁護士だけではなかなか動かせない問題があるので、弁護士会が組織的に取り組んで物事を動かしていくという意味で、委員会活動はとても大切だと考えています。
弁護士としての信条・ポリシー
きちんと証拠を吟味して的確に事実を語るということです。民事も刑事も全く同じです。自分の依頼者の言い分や事実に対する評価を前面に押し出すのではなく、証拠と証拠が語る事実を十分に固め、その事実関係からすれば、こちらの言い分を認めるしかないと裁判官を説得することです。色々な角度から証拠を眺め、本当にこの証拠からこの事実があったと言えるのか、繰り返し考えます。
よく考えれば当たり前のことですが、これが非常に難しく奥が深いのです。しかし、私は、ここに弁護士の存在意義があると考えています。そのような下準備を十分することなく依頼者の言い分だけを垂れ流す弁護士に少なからず出会いますが、あまり感心しません。
今後の弁護士業界の動向
法治国家において人が社会生活を営む限り、弁護士の仕事がなくなることはありません。今の弁護士人口を吸収できるほどではないにせよ、弁護士を必要とする分野は決して少なくはないと思います。
それよりも、社会が弁護士を見る目が以前よりシビアになっていると感じます。しかも、世の中の仕組みはどんどん複雑になっているので、弁護士は絶えず新しいことを勉強し続けなければなりません。もしかすると昔の弁護士は今の弁護士より優雅にやっていたのかも知れません。
しかし、今の弁護士はベテラン、中堅、若手を問わず、絶えず勉強し続けなければ、すぐに依頼者から愛想を尽かされ、相手方や裁判官に底の浅さを見透かされてしまいます。「先生」と呼ばれて胡座をかいているようでは、早晩、淘汰されてしまうでしょう。弁護士人口の増加だけでなく、このような弁護士の質の問題にも、業界全体として危機意識を持つべきだと思います。
弁護士が大幅に増え、一人当たりに行き渡る採算の合う仕事が減り、業界全体としての見通しはあまり明るいとはいえません。しかし、それでも最終的には、日本社会に合った弁護士像が自然と形成され、弁護士は生き残っていくと思います。