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 「部下が『社長の息子』だと思って話しましょう」 パワハラ防止へ弁護士がアドバイス
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「部下が『社長の息子』だと思って話しましょう」 パワハラ防止へ弁護士がアドバイス

最近、妊娠した女性への「マタハラ」や大学での「アカハラ」など、様々なハラスメント(嫌がらせ)行為が注目されているが、以前から大きな問題となっているのが、職場での「パワハラ」と「セクハラ」だ。もし万が一、加害者として批判されたり、通報されたりした場合、どうすればいいのだろうか。経営者や管理職が注意すべきことも含めて、使用者側の労働事件を専門にする山田長正弁護士に聞いた。(取材・構成/杉田米行)

●加害者や被害者の証言だけでなく、客観的な証拠集めが重要

——そもそもパワハラ、セクハラとは?

「パワハラとは、上司などが職場での立場を背景に、精神的、身体的な苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為です。セクハラは、性的な言動を通じて、職場環境を不快なものにしたり、拒否反応を示した人に対して、解雇、降格、減給などの不利益を与えたりする行為のことを指します」

——万が一、加害者として通報されたり、批判されたりした場合はどうすればいいのか?

「まず、徹底的に事実確認をすることです。客観的な事実関係をそろえたうえで、個々の事情に応じて対処法を検討すべきです」

——事実確認のためのポイントとは?

「メールや書類、利害関係のない第三者の証言など、客観的な証拠を多く集めて、加害者や被害者の証言が、証拠と整合性が取れているかどうかを確認することです。

特に加害者や被害者は、自分に有利な発言をすることが多いため、どちらの発言が信用できるのかは、慎重に調べることが大切です」

——もし加害者だと自覚がある場合、どういう行動を取るべきか?

「パワハラは、コミュニケーション不全を前提として起こることが非常に多いのです。上司としては、日常的に部下との間で、十分なコミュニケーションを取っておくことが重要です。

たとえば、部下に対して言い過ぎてしまった場合は、そのことを率直に認めて、謝罪することですね。部下の精神的な落ち込みがないか、仕事の能率が下がっていないか確認することも大事です。場合によっては、仕事を手伝ったり、業務終了後にお酒を飲みながら話したりするなど、フォローもしましょう。

また、セクハラについても、謝罪したうえで改善することに尽きるでしょう。事前にトラブルが大きくならないように対応すべきです」

●「給料泥棒!」のような人格非難は避けるべき

——加害者にならないようにするためには、どうすればいいのか?

「パワハラに関して、何点かポイントを挙げましょう。

まず、部下を厳しく叱ることも指導のうえで必要なときもあるでしょう。しかし、暴言は避け、言葉を選びましょう。少なくとも『給料泥棒!』のような人格を非難する言動は避けるべきです。注意や非難をする場合でも、できる限り人前で注意せず、しつこく非難しないことですね。

さらに、威圧的な行為を避けることや、明らかに実現不可能な業務や無駄な仕事を強要しないことも大事です。

あとは、特定の部下だけに仕事を与えないといったことは避けて、公平に扱うことです。毎日、昼休みに弁当を買いに行かせたり、過度に私生活に介入したりすることも避けましょう。

いずれにしても、パワハラは、意識せずに行っていることも多いので、注意が必要です。違法かどうかの判断基準も明確ではありません。ですから、『部下が社長の息子や娘であると仮定した場合に、上司として話してはいけない言動は控える』という感覚で接すればいいでしょう。

一方で、セクハラについては、『性的な言動』となりうるものは、たとえ仲が良くなった場合でも慎んだほうがいいでしょう。パワハラと同様に、部下が社長の息子や娘だと仮定して話しましょう」

——使用者側の弁護士として、印象に残っているケースはあるか?

「勤務上問題点の多かった会社の従業員に対して、会社がハラスメントを伴う解雇を行ったところ、元従業員から不服を申し立てられた事案がありました。会社は当初、別の弁護士に相談をして、その弁護士から『従業員としての地位がないことを確認する裁判を会社から起こすべき』とのアドバイスを受けたため、会社から元従業員に対して裁判を起こしました。

これに対して、元従業員は感情的になってしまい、徹底抗戦することが伝えられました。そして後日、元従業員から、サービス残業についても裁判を起こすことが伝えられたのです。この段階で、会社が私のところに相談に来られました。

私としては、これ以上紛争が拡大することは望ましくないと考え、会社と協議を行いました。私が先方と交渉して、元従業員に冷静になってもらうこと、解雇と未払い賃金に関する紛争を一挙に解決することを前提に、解決金を提示する方向で進めました。その結果、残業代を請求する新たな裁判は起こされず、無用な弁護士費用もかかることなく、早期に紛争が解決しました。

この際、会社の社長からは『これでゆっくり眠れます』『先生は私の命の恩人です』などと大変喜んで頂き、弁護士冥利に尽きると感じました。

『助かりました』『ありがとうございます』『夜遅くまでお世話になり、すみません』と依頼者からお礼やねぎらいの言葉をいただくときに一番弁護士としてのやりがいを感じます。

弁護士になりたいと思ったのは、父親が弁護士だったことと関係しています。小学校3年か4年の時、父親から弁護士は弱い人を助けて正義のために戦う仕事だと教えてもらい、自分もそのような仕事に就きたいと思いました。弱い人や困っている人たちから感謝してもらえるのは本当にありがたいです」

●重要なのはバランス感覚

——労働事件を担当する際に心がけていることは?

「法テラスなどの弁護士会での法律相談などでは、労働者側からの相談を受けることもよくあります。そんななか、パワハラを受けて自殺した20代男性の遺族から相談を受けたことがあります。母親は半狂乱状態で相談に来て、話していることの半分もわからないような状態でした。生々しい遺言書も拝見しました。使用者側の労働事件を専門にする弁護士として、労働者側の気持ちに配慮することの重要性を学びました。

また、別の法律相談で、同じくパワハラのケースですが、自殺寸前まで追い詰められていた方の親族から相談を受けました。私が使用者側の弁護士として、受任は難しいということをお伝えすると、逆上され、厳しい言葉も投げかけられました。

弁護士として重要なのはバランス感覚です。一方に偏った判断を下すのではなく、労働者側の意見に真摯に耳を傾け、みなが納得できる落としどころを探っていくことが重要だということを確信しました。

私の理念が正義を貫くことであり、人があって企業がなりたつという意味で、使用者側も労働者側も最終的に目指すところは同じです。会社全体として伸びていくためにどのようなことをすればよいのかを念頭に置いて、仕事をさせていただいています」

——今後どのような方向性を目指しているのか?

「2013年4月からは中小企業診断士にも登録し、成長途上にある中小・ベンチャー企業や、経営不振に陥った企業をサポートする専門家集団『あらた会』を立ち上げました。バランス感覚を磨き、従業員にやりがいを感じてもらえるような職場作りをサポートし、ひいては社会を活気づけられるよう頑張りたいと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山田 長正
山田 長正(やまだ ながまさ)弁護士 山田総合法律事務所
山田総合法律事務所 パートナー弁護士 企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。

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