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「労働組合は必要ない」 ワタミ社長の発言は「ブラック企業」の証拠というべきか?
社員を「身内」「家族」と思って接する経営者は少なくないようだ

「労働組合は必要ない」 ワタミ社長の発言は「ブラック企業」の証拠というべきか?

「ワタミには、企業理念の中に『社員は家族であり同志』という言葉がある。そういう人に対して、労使の関係は基本的に存在しないと思っている」――飲食グループを展開するワタミの桑原豊社長は「ワタミがブラックとは全然思っていない」と題した東洋経済オンラインのインタビュー記事でこう言い切った。

この言葉は、ワタミが「ブラック企業」と批判されていることについて、その批判を跳ね返すには労働組合を認めるくらいのことが必要ではないかと、記者から問われた際に出てきたものだ。

桑原社長は「経営側が決めることではない」としつつも、「これからも組合問題についてはいろいろなご意見が出るかもしれない。だが、今の段階として作らなければならないとも思わないし、作ろうとも思わない」「今のワタミにとって必要かというと、必要ではない」と明確に否定している。

しかし、グループ全体で合計6000人以上の従業員を抱える巨大な飲食グループに「労使関係」が存在しないことはありえないだろう。過労自殺の裁判も起きるような状況で、労働組合は本当に必要ないのだろうか。ブラック企業被害対策弁護団の代表をつとめる佐々木亮弁護士に聞いた。

●「社員は家族だから労組は不要、という発想は誤り」

「まず、事実認識として、社長が労働組合を『作る』『作らない』とか、『必要』『必要ない』とかを言うこと自体がおかしいと指摘できます。

労組は、労働者が組織して作るものであり、社長が要・不要を決めるものではありません。

そして、『社員は家族であり同志』だから労組は『必要ない』という発想は、それ自体が完全な誤りです」

どういった点が誤りなのだろうか。

「使用者と労働者は、労働契約を結んだ契約関係にあります。

当たり前ですが、家族ではありません。賃金は労働者にとって、労働したことの対価であって、会社がくれる『お小遣い』ではありません。

会社の発展という意味では、同じ志を持っていることもありうるでしょうが、賃金は会社にとっては経費ですから、会社の利益と労働者の利益は根本的に対立します。同志といっても、自ずから限界があります」

たしかに「同志」意識の有無と、賃金の支払いとは別問題だろう。

「労働者としては、自らの権利・向上を図るために、労組を結成します。これは権利であり、労働者にとって、自らの労働条件をよりよくするために必要な行為なのです。

社長が、社員を『家族』『同志』と思うことは自由ですが、これをもって、労働組合が必要ないとする論理は、飛躍も甚だしく、単なるごまかしにすぎません。

『労組は必要ない』と公言することは、それ自体が、労働者の団結権を侵害する『不当労働行為』となりうる発言です。桑原社長の今回の発言は、ワタミはブラック企業であるという評判を払しょくするどころか、逆に裏付けることになる発言であるように思われます」

佐々木弁護士は強く批判した。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

佐々木 亮
佐々木 亮(ささき りょう)弁護士 旬報法律事務所
東京都立大学法学部法律学科卒。司法修習第56期。2003年弁護士登録。東京弁護士会所属。東京弁護士会労働法制特別委員会に所属するなど、労働問題に強い。

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