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「地方出張」が連日つづく営業社員――移動時間は「労働時間」じゃないってホント!?
営業マンは日本中を北から南へ忙しく飛び回る

「地方出張」が連日つづく営業社員――移動時間は「労働時間」じゃないってホント!?

東京都内のIT企業につとめる営業のKさん(女性)は近ごろ、月に何度も地方出張をこなしている。朝7時発・24時帰宅という日帰りの強行軍もあれば、月曜から金曜まで泊まりがけのケースもあるという。

意欲的に働くKさんだが、あるとき会社から「出張中の移動時間は労働時間に含まれない」と聞かされ驚いた。仕事の出張で長時間拘束されているのに、移動時間が「労働」にならないのは、「なんだかしっくりこない」という。

さらに、普段はせっかく弁当を持参するなど節約しているのに、泊まりがけ出張が続くと、外食費や諸々の費用もかさんでしまう・・・。そんな風に、Kさんはぼやいている。

出張中の移動時間は、本当に「労働時間」に含まれないのだろうか。また、泊まりがけ出張で余分にかかった外食費などは、会社に請求できないのだろうか。労働問題にくわしい今井俊裕弁護士に聞いた。

●会社の「指揮命令」を受けているかどうか

「出張中の移動時間は、原則として労働時間に該当しません。これは、会社の業務遂行のために必然的に出張した場合でも、会社の指示を受けて遠方へ出張する場合でも変わりません」

今井弁護士はこう述べる。どうしてだろう。

「往路や復路の駅・空港へのアクセス時間。新幹線や航空便の待ち時間。乗車や搭乗している時間。到着地からその当日の宿泊予定ホテルへ移動する時間。さらに、そのホテルから取引先の事務所等へ移動する時間・・・。

こうした出張に伴い発生する移動時間は、使用者の眼がゆき届かず、管理されていない時間と理解されています。会社の指揮管理下になければ、労働時間とは見なされません」

移動も仕事の一部ではないのだろうか?

「労働時間になるかどうかは、使用者の指揮命令を受けて、拘束されているかどうかで判断します。何をしているかわからない移動時間は、『指揮命令を受けて拘束』されているとはいえません。週刊誌を読んだり、スマホでゲームに興じたり、居眠りしたり・・・。場合によっては、スルメと缶ビールでよろしくやっていたりする可能性もあり得るわけです。

ただし、たとえば、会社の指示を受けて金銭や物品を運搬するような場合は、労働時間と扱われることがあります。盗難や紛失が起こらないよう、緊張が持続していると評価できますから」

●会社に「出張中の食費を出して」というのはムリ

それでは、外食費など「出張がなければ使わなかったはず」の出費については、どうだろう?

「出張のための交通費・宿泊費は、領収証と引き替えに事後精算して会社が負担するか、概算額であらかじめ定められた出張手当等でまかなわれることが多いです。

しかし、会社に『食事代』の金銭支払義務があると考えることは、法的には無理でしょう。出張のあるなしに関わらず、食事は必要ですからね。

『普段は自炊して、自宅から弁当を持参して、生活費を安く押さえているのに!』という声が挙がるかもしれません。しかし、現実的には、その外食に要した実費の支払を会社相手に訴えたとしても、勝訴はまず無理でしょう」

交通費・宿泊費の他に「出張手当」を支給する会社もあるようだが・・・。

「その会社の政策的な理由によるものでしょう。法的な義務ではありません。労務管理上、何らの手当の支給もなければ『出張命令を受けた者は、ただ単に不運』と従業員に思われかねませんからね」

今井弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

今井 俊裕
今井 俊裕(いまい としひろ)弁護士 今井法律事務所
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。

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