グーグルが開発を進める「自動運転車」。ハンドルもアクセルもブレーキペダルもなく、目的地を入力するだけで、行きたいところまで連れていってくれる。
まるで夢のような話だが、実際は、グーグルカーのような「完全自動型」ではなく、これまで通り、人間のドライバーが運転しつつ、人工知能の支援を受けるという「半自動型」の車の実用化が先行しそうだ。
トヨタが開発している自動運転車も「半自動型」で、「熟練者並みの運転でドライバーを支援するための技術」と位置づけている。完全自動ではなく、ペーパードライバーでも安心して運転できるような技術を目指しているそうだ。そのような「半自動型」にはどんな法的な問題があるのだろうか。小林正啓弁護士に聞いた。
●「ブレーキアシスト」や「自動駐車」などの実用化が進む
小林弁護士は、グーグルカーのような「完全自律運転自動車」と比較しながら説明する。
「自動車が人間の運転の一部を代行したり、支援したりする技術は『運転支援技術』と呼ばれています。すでに、高速道路でも活用を想定して、ブレーキアシストや自動駐車技術が実用化されています。
このような自動車が人身事故を起こした場合、運転支援中であったとしても、現行の自動車損害賠償法が適用されます。つまり、自賠責保険の範囲内で、被害救済がなされることになります
実は、完全な自動運転よりも、『運転支援技術』の方がさまざまな法的問題が生じる可能性があるのです」
●人間とコンピューターが「責任」を押し付け合う?
いったい、どんな法的問題が生じるのだろうか?
「自賠責保険の範囲を超えて、十分な賠償金を得ようとした場合、ドライバーの過失を立証する必要があります。ここで重大な障害に直面することが予想されます」
どんな障害なのだろうか。
「『運転支援技術』は、人間とコンピューターの、2人のドライバーが協働して運転しているようなものです。
それで事故が起きると、人間とコンピューターが、互いに責任を押しつけあう事態が予想されます。そうなると、被害者は、両方に責任があることを証明しない限り、法的には、どちらの責任も問えないことになりかねません。
被害者を救済するうえで、問題が生じることが明らかなので、法律の整備を急ぐ必要があります」
なるほど、人間とコンピューターのどちらにどの程度の責任があるのかを明らかにできない場合は、法的な対応が難しくなってしまうということだ。
「結局のところ、『完全自律運転自動車』であっても、『運転支援技術』であっても、本格的な普及のためには、法改正や、保険制度の整備が不可欠ということになります」
まだまだ自動運転の技術は発展途上だが、世の中を大きく変える可能性がある。今後は新たな法制度を議論することが必要になってくるだろう。