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運転手がいない「グーグルカー」 事故が起きたときの責任は?(自動運転車と法・上)
Googleは自動運転の試作車をYoutubeで公開している

運転手がいない「グーグルカー」 事故が起きたときの責任は?(自動運転車と法・上)

ハンドルもアクセルも、ブレーキペダルもなし。目的地を入力して、「運転」ボタンを押すだけで行きたいところまで運んでくれる――。そんな本当の意味での「自動車」が現実のものとなる日が近づいているようだ。米グーグルはこのほど、2009年から開発している「自動運転車」の試作車を初めて公開した。

報道によると、グーグルの試作車は、ルーフの上に搭載したセンサーやカメラで周辺情報を集めて、人工知能を備えたコンピューターが走行を管理する。2020年の実用化を目指して、この夏から走行実験を開始するという。

気が早い話かもしれないが、もしこのような自動車が事故を起こしたら、被害者は誰に損害賠償を請求することになるのだろうか? 乗車していた人?メーカー?それとも・・・?ロボットをめぐる法律問題にくわしい小林正啓弁護士に聞いた。

●「完全自律運転自動車」の場合、メーカー責任を問うしかない

「自動車が人身事故を起こした場合、ドライバーは原則として、被害者に対する責任を負うことになっています。そのため、自動車損害賠償法に基づいて、自賠責保険への加入が義務づけられているのです。

自動車と人間を共存させるため、政策的に被害者保護を厚くしているといえるでしょう」

小林弁護士はこのように、自動車事故に関する制度について説明する。

「ただ、自賠責保険の賠償額は十分なものではありません。それ以上の賠償金を得るためには、被害者がドライバーの過失を証明する必要があります。この証明は、ケースにもよりますが、それほど難しいものではありません」

では、自動運転の場合はどうなるのだろうか。小林弁護士は、グーグルカーのように全自動で走行する「完全自律運転自動車」の場合について解説する。

「自動車損害賠償法は、ドライバーのいない自動車を想定していませんから、そもそも『完全自律運転自動車』が起こした事故には適用されません。

ですので、人身事故を起こした場合、ドライバーではなく、自動車メーカーの責任を問うことになります。

その場合、被害者は製造物責任法(PL法)に基づいて、自動車の欠陥を立証しない限り、損害賠償を請求できないのです。欠陥を裁判で証明することは、実際にはきわめて困難でしょう」

たしかに、自動車そのものの欠陥を指摘するのは、技術的な知識の乏しい一般の人にとっては簡単ではなさそうだ。

●事故率は大幅に低下するので、保険料が下がる可能性も

「これでは、被害救済が薄すぎますし、『完全自律運転自動車』の普及を妨げることにもなるでしょう。自動車損害賠償法の改正や、自賠責保険制度の改定が不可欠です。

しかし、自賠責保険が完全自律運転自動車に適用されるとしても、被害者はドライバーの過失を立証することができないので、自賠責保険の賠償額以上の賠償金を取ることが困難になってしまいます。

これでは、『完全自律運転自動車』にひかれた場合、これまでの自動車と比べると賠償金額が低くなってしまいます」

なるほど、法改正がなければ、悪影響が出てしまうということだ。

「『完全自律運転自動車』の実用化が実用化された場合、賠償金額が低くならないために、自賠責保険では、これまでの自動車よりも高い賠償金が設定されるでしょう。

ただし、事故率は大幅に減ると予測されていますので、保険料は下がるかもしれません」

どうやら自動運転車の実現のためには、保険制度を変える必要があるようだ。ただ、現実的には、グーグルが目指しているような「完全自動型」ではなく、人間が人工知能のサポートを受けて運転する「半自動型」の方が現実的だろう。「半自動型」にはどんな法的課題があるのだろうか。

「人工知能が助ける「未来の自動車」 予想されるトラブルとは?(自動運転車と法・下)」に続く

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小林 正啓
小林 正啓(こばやし まさひろ)弁護士 花水木法律事務所
1992年弁護士登録。ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。

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