学生アルバイトの定番である塾講師。アルバイトの中では「時給」が高く、プレゼンテーション能力も身に付けられると人気だが、必ずしも良いことばかりではないようだ。聞こえの良い条件ばかりに目がいくと、思わぬ落とし穴に陥るかもしれない。
塾講師のアルバイトをはじめて2年をむかえる東京都内の男子大学生Yさんは、ある不満を抱いている。Yさんが働いている塾では、1コマ60分の授業に「時給」が支払われるが、授業以外の時間は「休憩時間扱い」となる。つまり授業の前後や合間に、プリント作成やテスト採点、保護者とのやり取りなどの「仕事」をしても、その時間分の給料はもらえないというのだ。
確かに他のバイトに比べると、「時給2000円」という条件は見栄えが良い。しかし、実際に働いた時間に対して支払われる金額で考えると、「割に合わない」と、Yさんは感じているようだ。こうした授業以外の「仕事」に対してお金を支払ってもらうことはできないのだろうか。靱純也弁護士に聞いた。
●休憩時間中は「労働から完全に解放される」
「Yさんは、授業以外の『仕事』の時間についても、塾に給与の支払いを請求することができるでしょう」
靱弁護士はこのように結論を述べる。どうして、そう言えるのだろうか?
「労働基準法上、休憩時間中の労働者は、休息のために労働から完全に解放されることを保障されています。
Yさんは塾の指示により、授業時間外も『仕事』を行っていたと思われますので、この時間を『休憩時間』と見なすことはできません」
休憩時間でないなら、労働時間になるのだろうか?
「業務命令を受けて仕事をしていれば、その時間は、労働時間になります。
もし、仮に明確な指示がなかった場合でも、プリント作成や採点、保護者対応をYさんが行わざるを得ないのであれば、実質的に使用者の指揮命令下におかれているといえ、それは『労働時間』として扱われるでしょう。
また、実際には仕事をしていない待機時間でも、たとえば、保護者から対応を求められればYさんがすぐに対応しなければならないような場合には、待機時間も労働時間にあたると判断されることがあります」
そうなると、お金ももらえる、というわけだ。
靱弁護士は「労働時間とみなされれば、塾はYさんに対して、その時間分の賃金を支払う必要があります。もっとも、2年以上前の賃金等は時効で消滅しますので、Yさんは早めに請求をしたほうがよいでしょう」とアドバイスを送っていた。