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生活保護費プリペイド支給は「生存権やプライバシー権の否定」弁護士らが大阪市長批判
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生活保護費プリペイド支給は「生存権やプライバシー権の否定」弁護士らが大阪市長批判

生活保護費の一部をプリペイドカード(プリカ)で支給する事業をめぐって、吉村洋文・大阪市長が「全部プリカにしたいが法律上できない」「国の制度を変えない限り難しい」などと述べ、法改正の必要性を訴えたことに対し、弁護士などでつくる「生活保護問題対策全国会議」(代表幹事:尾藤廣喜弁護士)は4月25日、「生存権やプライバシー権の根幹を否定する極めて危険な発想だ」と批判する声明を発表した。

●プリカ利用の申し込みは「65世帯」しかなかった

大阪市は2015年5月から今年3月にかけて、全国で初めて、生活保護費の一部をプリカで支給する事業を試験的に実施していた。市が三井住友カードなどと提携し、希望する受給者に対して、生活扶助費のうち、食料や衣料などの購入費について毎月3万円分をプリカに入金する仕組みだった。

同市内で生活保護費を受給する約11万7000世帯のうち、実際にプリカ利用を申し込んだのはわずか65世帯にとどまった。市が想定していた2000世帯からも大きく離れていたため、今年度からの本格実施を断念した。市生活福祉部保護課によると、現在は試験的な実施も取りやめており、今後、利用者のアンケートなどをもとに、事業のあり方について再検討するという。

●「国家的規模の貧困ビジネスの始まりだ」

吉村市長は4月14日の定例記者会見で、生活保護費の一部をプリカで支給する目的について、不正受給を防ぐことと、受給者の家計管理に資するためだと説明した。さらに「全部プリペイドカードにしたいが、法律上(強制)できない」「国の制度を変えない限り難しい」「生活保護を抜本的に正していくとなれば、法律を変えてもらわないといけない」などと法改正による推進の姿勢を見せた。

吉村市長の発言に対して、「生活保護問題対策全国会議」が反発。今回の声明で、「生活保護の実施機関が、プリカの利用履歴を把握し、生活保護利用者の生活全般を管理支配することは、生活保護利用者のプライバシー権・自己決定権(憲法13条)の著しい侵害だ」と批判した。

また、「生活保護でプリカ支給が原則とされれば、同様に税金が財源(の一部)となっている老齢年金、障害年金、児童手当などの公的給付も、プリカ支給されるようになることは決して杞憂(きゆう)ではない」「大手カード会社が、福祉給付を利潤の源として食い物にする国家的規模の貧困ビジネスの始まりだ」などと、事業そのものの問題点も指摘した。

同会議事務局長の小久保哲郎弁護士は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「もともと、プライバシー権などの理屈面からも、プリカで受給者の生活を管理するという実施面からも、無理のある事業だった。本来なら、反省して撤回すべきなのに、(吉村市長の発言は)非常に問題があった」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)

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