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ドラレコで撮影した迷惑運転をYouTubeに…「お怒りごもっとも」だけど、名誉毀損の恐れも
写真はイメージです(kitthanes / PIXTA)

ドラレコで撮影した迷惑運転をYouTubeに…「お怒りごもっとも」だけど、名誉毀損の恐れも

ドライブレコーダーで録画した車の動画をYouTubeに投稿する行為が一部のユーザーによりおこなわれている。後続車や対向車の「迷惑運転」、言いがかりをつけてきた人物の様子などを投稿し多くの再生数を稼いでいる動画も見受けられる。

なかには、個人が特定されかねない動画も確認できた。迷惑運転に怒る気持ちはあったとしても、肖像権の侵害や名誉毀損などの法的トラブルに発展するおそれはないのか。ネット問題に詳しい最所義一弁護士に聞いた。

●怒って投稿、逆に自らが責任を問われるかも

ーー肖像権とはどのようなものですか

「一般的に、肖像権とは、みだりに自己の容貌等を撮影されない利益として定義されています。この利益は、人格権に由来するものとして、法律上も保護される利益ですが、無制限ではありませんので、社会生活上の受忍限度内で行われた撮影については、必ずしも違法となるものではありません。

社会生活上の受忍限度内と言えるかどうかについては、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性、等の状況に加え、撮影される人の社会的地位やその人の活動内容等を総合的に考慮して判断されることになります」

ーードライブレコーダーによる撮影はいかがでしょうか

「一般的には、(1)撮影場所が純粋な私的空間とは異なる公道であること(2)撮影の目的も事故等が生じた場合の車の位置関係を明らかにする目的で、撮影にも証拠保全の観点からの必要性が認められること

(3)撮影の態様も自動車の前後を一定時間撮影した上で、上書きされていくものであること、(4)撮影される人も特定人を殊更に追いかけて撮影するものでないこと等の事情からすれば、撮影行為自体が違法とされることは、通常は考えにくいと思います」

ーー承諾なく公表する行為に違法性はあるのでしょうか

「撮影行為自体が適法であったとしても、肖像権には、自己の容貌等が撮影された写真をみだりに公表されない利益も含まれていますので、承諾なく、公表する行為については、別途検討する必要があります。

これについても、公表されることが社会生活上の受忍限度内と言えるかどうかという点が基準になります。例えば、公表によって、撮影された人に対する名誉毀損が成立するような場合には、受忍限度を超えたものとして、違法とされることになるでしょう」

●特定人を「さらす」行為、避けるべき

ーー相手の迷惑行為を投稿することはどう考えればいいでしょうか

「『迷惑行為』や『言いがかりをつけてきた』様子がドライブレコーダーによって撮影されたものを公開することは、それによって、ドライブレコーダーにうつっている人物が、悪質な行為を行う人物であるとの事実を摘示することになりますので、その人の社会的評価を低下させることになります。

もっとも、人の犯罪に関する事実を明らかにすることは、公共の利害に関するものと言えますし、その人がどのような行為を行ったのかという点が、映像で明らかとなっていることからしても、その映像が格別編集されたようなものでない限りは、その映像自体は、真実を明らかにしたものと言えるでしょう」

ーー憂さ晴らしのために投稿する人もいるかもしれません

「単なる『憂さ晴らし』が目的であるような場合や、多くの再生数を稼ぐこと自体が主要な目的となるような場合には、公益目的を欠くとして、真実であったとしても、名誉毀損行為となる可能性があります。

公益目的を判断する上では、敢えて、特定人の顔を『さらす』必要があるのかといった点も考慮要素となり得ます。実際に、モザイクやマスキングを掛けることは容易ですので、そのような作業を行うことなく、格別著名でもない一般人の姿態を明らかにした上で投稿する行為は、特定人を殊更『さらす』目的、単なる『憂さ晴らし』によるものとして、違法と判断されてもやむを得ないでしょう」

ーー感情的になって投稿するのはやめたほうがよさそうですね

「はい。名誉毀損行為は立派な犯罪行為です。犯罪行為を告発するつもりで、自らが犯罪行為をしてしまっては、本末転倒です。ネットの投稿には、想像以上の影響力があります。影響力を駆使しようとしたばかりに、その影響力ゆえに自らの責任が問われてしまっては元も子もありません。ネットへの投稿には、節度ある対応が求められます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

最所 義一
最所 義一(さいしょ よしかず)弁護士 弁護士法人港国際法律事務所湘南平塚事務所
東京大学農学部農業工学科(現生物・環境工学専攻)を卒業後、IT技術者や病院事務職(事務長)を経て、弁護士に。一般企業法務や知的財産問題のほか、インターネット関連のトラブルの解決に精力的に取り組んでいる。

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