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「宇宙ゴミ」で人工衛星や宇宙船が被害 賠償してもらえるのか?
画像はイメージ(perming / PIXTA)

「宇宙ゴミ」で人工衛星や宇宙船が被害 賠償してもらえるのか?

スペースシャトルや人工衛星など、これまでアメリカが先行してきた分野である「宇宙開発」。近年は、中国など新興国のチャレンジが活発になっている。先日、仮釈放された堀江貴文・元ライブドア社長も将来の夢として「宇宙開発」に触れており、国家だけではなく、グループや個人による取り組みも増えている。

そのような中、地球の衛星軌道上にある「宇宙ゴミ」が問題になっているという。宇宙ゴミとは、ロケットや人工衛星の打ち上げの際に出た部品や破片のことで、たとえ小さな破片でもあっても、高速で移動しているため、人工衛星や宇宙基地に衝突すれば甚大な被害を及ぼすと言われている。

今後、ロケットの打ち上げ機会が多くなれば、それにともなって宇宙ゴミも増えるだろう。そうなれば事故の危険性も高くなるはずだ。では、もし宇宙ゴミによって事故が起きた場合、それによって壊れた人工衛星や宇宙船の持ち主(国や個人)は弁償してもらえるのだろうか。

●「宇宙ゴミ」による損害賠償を定めた国際条約は、まだ締結されていない

日本航空宇宙学会に所属し、宇宙法にも理解がある作花知志弁護士によると、「宇宙ゴミで被害を受けた方は、その被った損害を賠償してもらうことはできません。つまり自己責任ということになります」という。なぜ、そうなってしまうのだろうか。

作花弁護士は、どこかの国が打ち上げた「宇宙物体」と宇宙空間を漂う「宇宙ゴミ」を区別しながら、次のように解説する。

「ある国が打ち上げた『宇宙物体』により、宇宙活動を行っている者が損害を被った場合、その宇宙活動を行っていた者は、その宇宙物体の打ち上げ国に対して、損害賠償を請求できることが、『宇宙損害責任条約』によって認められています。

それに対して、そのような宇宙物体ではなく、いわゆる『宇宙ゴミ』によって、宇宙活動を行っている者が損害を被った場合には、現在のところ、その損害の賠償について、ある国等に対して請求することを認めた国際条約は締結されていないのです。つまり、現在の国際社会においては、宇宙ゴミの問題は法がない状態(法の欠缺)、いうことになります」

●宇宙ゴミの発生抑制を目的とした「ガイドライン」は存在するが・・・

つまり、宇宙ゴミの問題は、国際的なルールで解決するほかないが、「宇宙ゴミ」を想定した国際ルールがまだ存在しない状態なのだ。「そのような『法の欠缺(けんけつ)』が続くことは、もちろん好ましいことではありません」と、作花弁護士は指摘する。国際社会も、問題解決に向けて動き出しているようだ。

「現在、国連に常設委員会として設置されている宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)では、『宇宙ゴミ』について、『国際法』そのものではない『ガイドライン』が採択されています。ただ、それも、宇宙ゴミの発生抑制を目的とした『スペースデブリ低減ガイドライン』というものが、2007年に採択されるにとどまっています」

つまり、ガイドラインはあるものの、まだまだ不十分というわけだ。

「今後は、宇宙ゴミについての賠償制度・補償制度を構築するため、国際条約の締結が必要といえます。そのような国際条約が成立する前の段階においては、宇宙活動の過程で『宇宙ゴミ』による損害を被った場合に備えた保険制度の確立が求められているといえるでしょう」

宇宙というとロマンが先行しがちな分野だが、もしものときのために、法や保険といったトラブル解決手段も同時に整備していかなければならないのだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

作花 知志
作花 知志(さっか ともし)弁護士 作花法律事務所
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。

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