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警察の拷問に耐えきれず「嘘の自白」で死刑判決――台湾男性が語った「壮絶体験」
えん罪で逮捕され、拷問を受けた体験を語る台湾人のスー・チェン・ホ(蘇健和)さん

警察の拷問に耐えきれず「嘘の自白」で死刑判決――台湾男性が語った「壮絶体験」

身に覚えのない強盗殺人の疑いで逮捕され、拷問を受けた末、やってもいない犯行を自白させられた。一度は死刑判決を受けたが、えん罪を訴え続けた結果、再審が行われ、逮捕から21年後に無罪が確定した。

そんな壮絶な人生を送った人物がいる。台湾人男性のスー・チェン・ホ(蘇健和)さんだ。スーさんは11月16日、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが東京都内で開いたシンポジウムに招かれ、自らの壮絶な体験を語った。

●「全身に電気ショック」

1991年8月、台湾で起きた強盗・殺人事件。その容疑者として逮捕されたスーさんは、自らが受けた「拷問」を次のように振り返る。

「私は30時間にもわたって取調室で拘束され、自白させようとする警察から拷問を受けました。

手足を縛られた状態で仰向けに寝かされて、鼻と口をタオルで覆われて水をかけられ、呼吸ができなくなりました。何とか呼吸をしようとしましたが、そのたびに大量の水を飲まざるを得ませんでした。

水をかけられても自白をしないと、次は全身や下半身に電気ショックを与えられたり、顔を殴られたりしました。

そうした拷問に耐えきれず嘘の自白をしてしまい、1995年に死刑が確定しました」

スーさんは逮捕当時、19歳だった。拘束されていたとき、スーさんの脚には2キロのおもりが付けられていた。そのせいで、今でも脚には後遺症が残っているという。

●支援者の活動により無罪確定

「当時は誰も、私が無罪だと信じてくれませんでしたが、父だけは別でした。父は1991年から2000年まで毎日、国会や立法院に行ったり、学者に会ったりして、息子の無罪を陳情してくれました」

スーさんが逮捕された事件は疑問点が多く、台湾の政治家や学者、市民などの関心を広く集めた。人権団体や弁護士、一般市民も支援に名乗りを上げ、「冤罪反対」「死刑反対」と書かれたプラカードを持って街をねり歩いた。

こうした支援もあり、2000年にスーさんの再審が開始され、刑の執行が停止されることになった。その後、2003年に無罪判決を受けて釈放されたが、検察側の上告などもあり、判決はなかなか確定しなかった。

しかしその間、改めて行われた証拠鑑定によって、殺害現場に残された指紋や毛髪がスーさんのものと一致しないことが判明。そうした結果、2012年8月に無罪が確定した。このとき、警察の拷問と偽の証拠作成が違法だと認められたという。

●「取調室の拷問は聞かなくなった」

この事件が1つのきっかけになり、「2003年頃から台湾の司法制度改革は大きく進歩した」とスーさんは語る。

「取り調べの全過程の録音・録画が認められるようになったため、取調室で肉体的な拷問が行われているという話はほとんど聞かなくなりました。

私の事件では、支援者たちの運動があったからこそ、司法制度改革が早く進みました。司法制度改革は、裁判所など司法に関わる人たちが努力するだけでは、なかなか変わりません。市民も含めて1人1人が関心を持ち、活動することが大切だと思います」

こうした「取り調べの全面可視化」は台湾だけでなく、香港、韓国でも実現しようとしている。しかし、「日本の司法制度改革は遅れている」。イベントに登壇した泉澤章弁護士はこう指摘する。

●「どんな取り調べが行われているか分からない」

「日本では、取り調べ室に弁護士が入ることができず、誰も、どんな取り調べが行われているか全く分かりません。来年制定される法律によって、取り調べの可視化が認められる可能性もありますが、全刑事事件の2%程度しか対象にならないといわれています」

日本の刑事司法制度改革がなかなか進まないのは、なぜなのだろうか?

「おそらく、日本の大多数の人は、えん罪で逮捕された人を可哀想だとは思っても、自分ごととは思わず、改革を進めるための活動をするまでには至らないのでしょう。

自分の人権だけではなく、他人の人権も守るのが、民主主義のあるべき姿です。みなさんは、虐げられている他人の人権に対して、どれだけ自分のことのように真剣に考えられるでしょうか?

人間らしく自由に生きる権利が自分だけではなく、すべての人にあるのだという意識が1人1人の心にあれば、すべての人の人権が守られる社会に変わっていくのではないかと思います」

泉澤弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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