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三浦春馬さんの死から2年、アミューズが「ネット中傷」「陰謀論」と本気で戦うワケ
(弁護士ドットコムニュース)

三浦春馬さんの死から2年、アミューズが「ネット中傷」「陰謀論」と本気で戦うワケ

人気タレントを多く抱える大手芸能事務所「アミューズ」が、ネット上の誹謗中傷への対応を粛々とおこなっている。

エンターテインメント企業として、ファンによる自由な言論を歓迎しつつ、会社や役員、所属アーティストに向けられた投稿の内容が「度を超えた」と判断した場合、法的手続きを取っている。

ここ最近も、ツイッター上の投稿が名誉毀損にあたるとして、発信者情報の開示をもとめた裁判で、プロバイダと契約した人の氏名や連絡先などの情報開示を命じる判決を獲得した。

つい先日、三回忌を迎えた三浦春馬さんをめぐる「陰謀論」との向き合い方にもアミューズはいまだ苦慮している。同社法務部などへの取材から、どのようなネットの投稿を問題視しているのか、その一端をうかがった。(編集部・塚田賢慎)

●芸能界でも珍しい「法務部」のツイッター運営

〈本日、東京地方裁判所において、昨年秋に投稿され複数のデマ情報を流布し名誉を毀損するツイートに関し、発信者情報(氏名と住所を含みます)の開示を命ずる判決を勝ち取りました。いつも様々な貴重な情報をご提供くださり、ファンの皆様には本当に感謝しております。#なくそう誹謗中傷〉

「株式会社アミューズ 法務部」のツイッターアカウントが、判決言い渡しのあった6月17日、上記のように勝訴を報告した。

取材に応じたアミューズ法務部によれば、エンタメ法務知識の普及やネット上での誹謗中傷対策等を目的として、2020年10月に法務部公式ツイッターアカウントを開設。それ以来、会社・会社関係者に対するネット上の誹謗中傷について申し立てた民事裁判は2桁を数えるという。

●「犯罪行為に使われる地下室」の存在を示す投稿は名誉毀損と認められた

先の判決は、あるツイートがアミューズへの名誉毀損であることを認め、発信者情報の開示をプロバイダに命じたものだ。

弁護士ドットコムニュースも、名誉毀損と認定された投稿や、そのアカウントを確認したが、なかなか口にするのもはばかられるツイートが繰り返されていた。法務部はこのように説明する。

「アミューズの施設内に、犯罪行為に使用されている地下室があるという趣旨のツイートについて、裁判所が、アミューズの施設内にそのような地下室があるという事実は認められないという判決を出しました。

裁判所が証拠として採用した資料によれば、年少者を含む多数のアーティストが所属する芸能事務所であるアミューズについての上記のような虚偽情報をアーティストや関係者が読んだ場合には、信頼関係にひびが入るおそれがあることや、年少アーティストの活躍が阻まれてしまわないかについて、アミューズの経営陣は心を痛めています。

犯罪行為に使用されている地下室があるなどと言われたアミューズの施設へは、外部からの問合わせや、それを素材にした動画を作成して再生回数を稼ごうとするユーチューバーまで出現していて、近隣住民にも迷惑が掛かっています」

名誉毀損と認められた各種ツイートや、それをもとにして作られた動画には、それを信じる人からのコメントが寄せられている。

●三回忌にあたって母親が出した声明

法務部のアカウントがツイッターを始めた時期は、2020年7月に所属俳優の三浦春馬さんが亡くなった時期から遠くない。

三浦さんの死をめぐっては、亡くなった当初から事務所発表とは異なる「死の真相」などの情報や憶測に基づく報道がまことしやかになされ、それに基づく誹謗中傷が向けられたこともあり、アミューズはこれまで、繰り返し経緯などの説明に尽くしてきた。

だが、今でも死因は自死ではなかったとする「陰謀論」めいた言説が目立つ状態だ。

先の開示命令の対象となったアカウントもそのような動きと足並みを揃えるように、死後数カ月ころから三浦さんの死が「暗殺」であるとし、過激な投稿を加速化させた。

そうした状況の沈静化を願うかのように、三回忌にあたって、三浦さんの母親がアミューズを通じてコメントを出した。

《三回忌となる7月18日を迎えるにあたり、事務所の方々にたくさん相談し、このたび築地本願寺に納骨させていただくことを決めました。これが皆様のことを何よりも大切に思っていた彼のために、今私ができることだと思っております》
《ファンの皆様の、春馬を想ってくださるお気持ちに励まされながらも、一方で、彼や彼が大切にしてきた仲間たちや作品を傷つける声に大変悲しく思っております》

●自分が誹謗中傷していないことに気づいていない人もいるのではないか

法務部に、三浦さんをめぐる陰謀論についての受けとめも尋ねた。

「三浦春馬の件について、全く事実と異なる情報がネット上はもちろん、インターネットであるかどうかは問わず、いわゆる『デモ』などの場で流布されています。

本年6月26日の株主総会でも申し上げたとおり、三浦春馬の件についての事実は、当社ウェブサイト(https://www.amuse.co.jp/info/hm/)にて2020年9月4日に申し上げたことがすべてです。

これと矛盾するあるいは両立しない情報は、真実ではありません。様々なメディアや人々が彼の死について報道したり発信したりすることで、事実ではない情報が氾濫し、情報に翻弄されている方々がいるだけでなく、このような方々の中には自らが誹謗中傷してしまっていることに気付いていないように見受けられるケースもあります。

他方で、このような状況に乗じて根も葉もない情報を面白半分でさらに拡散したり誹謗中傷したりする者もいれば、悪意をもって誹謗中傷を続ける者もいます。

繰り返しになりますが、株式会社である当社にとって最も公式な場である株主総会をはじめとする場で申し上げているとおり、三浦春馬の件についての事実は、当社ウェブサイトにて2020年9月4日に申し上げたことがすべてです。

エンターテインメントを担う企業が法的措置を取らなければならないことについては複雑な思いでおりますが、一方で、当社や当社関係者を守るためにも、度を超えたな行為については、会社として厳正な姿勢も取らざるを得ないと考えております」

●言われなき誹謗中傷への取り組みは、自社だけでなく、芸能界全体の課題

アミューズがたびたび強調するのは、「度を超えた」投稿を対象にしていることだ。

「ファンの皆様からの叱咤激励や言論活動を阻害するつもりは毛頭なく、法的措置等の対応をしているのは、『度を超えた』事例に対してです」(法務部)

先の判決からわかるとおり、ここでいう「度を超えた」ものにあたるのは、企業が犯罪行為に加担しているといった指摘もその一つだ。

開示手続きによって特定した投稿者に損害賠償を求めたことはまだないが、複数の案件で検討が進められているという。また、民事だけでなく刑事でも、警察に告訴状の受理申し立てをしたこともある。

誹謗中傷への取り組みは、自社だけでなく、芸能界全体における課題として認識し、使命感をもってあたっているという。

「今後ともアミューズは、同社や同社所属アーティストを守ることは当然として、さらに、業界全体の課題となっているネット上での誹謗中傷問題に対して立ち向かいたいという使命感を持って、法的措置を含めた行動をとる所存です。

侮辱罪の厳罰化(2022年7月7日施行済み)や、投稿者情報の開示手続の簡素化(2022年10月1日に法改正が施行される予定)も追い風であるとアミューズは感じています」(法務部)

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