周囲の景観を損なうことなどを理由に、和歌山県は3月上旬、那智勝浦町にある老朽化した空き家を行政代執行で撤去した。老朽化を理由とした撤去の行政代執行は多いが、景観を理由にすることは全国的に珍しいという。
報道によると、撤去作業が始まったのは、那智勝浦町勝浦にある、およそ50年前に建てられた木造2階建ての住宅。10年以上前から空き家となり、壁が壊れたりツタが茂ったりしたまま放置され、周囲の景観を損ねていた。所有する女性に修理や撤去を勧告しても応じないため、県は景観に関する条例に基づき、行政代執行で撤去することを決めた。
景観を理由に建物を代執行で撤去することをどう考えればいいのか。空き家問題に取り組んでいる中島宏樹弁護士に聞いた。
●県の景観支障防止条例にもとづく「行政代執行」
「根拠となるのは、和歌山県において2012年1月1日に公布された景観支障防止条例です。この条例は、著しく劣悪な景観により県民の生活環境が阻害されることの防止を目的として定められました。
条例では、建築物等が廃墟化し景観上支障となることを禁止しています。そのような廃墟については、(1)周辺住民からの要請、(2)所有者に対して除去等の勧告・命令、といったステップを経た後、行政が代執行、つまり、持ち主に代わって強制的に撤去することができます」
中島弁護士はこのように述べる。今回のケースはこうした条件を満たしていたということだろうか。
「今回の建物は10年以上空き家となっており、外壁をツタが覆ったり、木が腐ったりしている状態でした。
2012年12月に、周辺住民からの要請が県に寄せられたのを受けて、県は持ち主に対して、修繕や除去を求める指導を2013年4月に、勧告を2014年4月に、命令を2015年9月に、戒告を同年12月に行いました。所有者がそれに応じなかったことから、行政代執行に踏み切りました。
代執行の費用150万円は、所有者から徴収される予定です。
和歌山県は空き家率が高く、空き家が廃墟化して周辺の良好な景観を阻害している状況が見られました。そして、今後もそういった廃墟が増加していくことが予想されています。
条例は、そうした状況を打破するべく制定されたのです。本条例は、空き家問題の解決に一石を投じる画期的なものと言えるでしょう。
それと同時に、景観保護を目的として財産権の制限という強いアクションを行政が起こすことを可能とするので、慎重な運用が求められると思います」
中島弁護士はこのように述べていた。