「初」や「異例」なら記者会見を開きやすい 現役記者に聞く記者会見の開き方やコツ Vol.1
日々多くの記者会見が開かれているが、大きく報道されるニュースがある一方、報道されないまま終わるテーマもある。司法関連取材経験が豊富で、弁護士が会見者として登壇する機会の多い東京の司法記者クラブに勤務経験のあるマスメディアの現役記者2人に、匿名を条件に、記者クラブでの会見の開き方やコツなどを聞いた(2021年4月中旬、東京都内にて)。内容を3回にわけて紹介する。1回目は、会見を受け付ける基準などについてがテーマ。 参加者: T氏 在京民放テレビ局記者。記者歴15年以上。 N氏 大手新聞社記者。記者歴15年以上。
希望日時あれば3〜4週間前に連絡を
ーー東京の司法記者クラブでの記者会見は、どれくらい行われているのでしょうか。
T 時期によりますね。3月、9月、12月は多いです。多い日で1日に5、6件です。
ーー記者会見を開く時期として穴場の時期とかはありませんか。
T 話題がホットなうちに開くのが良いと思います。テレビは放送するものがない時期というのは、基本的にありません。夏休みでもあっても道が混んでいるとか、涼しげな水場の風景とかいくらでもあります。強いて言うなら、年末年始は、特番が多くてニュース枠が減るので、やめた方がいいと思います。
ーー1つの会見の時間は、どれくらいですか。
T 会見は基本30分なのですが、「1時間やりたい」という人もいます。クラブには持ち回りで幹事をやる会社(幹事社)という役回りがあって、幹事社は、記者会見の司会をするため、必ず出席しないといけません。1時間で、1日5件あると、会見に5時間つきっきりになるので、負担が重くなりすぎます。
ーー記者会見をやりたいと考えたらどうすればよいのでしょうか。
T 東京高裁に電話して、司法記者クラブで会見したい旨を伝えてもらえれば大丈夫です。会見の可否は、基本幹事社が判断しますが、迷った場合は、クラブ内で合議して決めます。
ーー司法クラブで受ける事件の種別はないかあるのでしょうか。
T ニュースバリューがあれば、なんでも受け付けます。
ーー労働事件は厚労省の記者クラブで会見をやっているイメージがありますが。
T それは厚労省に各社の労働担当の記者がいるからでしょう。裁判所のクラブで開催してもおかしくはありません。
N たまに両方のクラブで会見をやろうとする人がいますが、どちらか選んでほしいです。もしくは、片方には資料提供にとどめるとか。
ーー記者会見を開くにあたり、申し込み期限はあるのでしょうか。
N ありませんが、希望日時があれば、3週間から4週間前に連絡してもらえればと思います。日程の空いているところから、予定を入れていきますので。
「弁護士」の肩書きは記者会見につながりやすい
ーー「弁護士」という肩書きは、会見の開催しやすさにつながりますか。
T はい。弁護士であれば、内容についてしっかり確認しますし、電話がかかってきた記録も残します。「本人訴訟」で本人がかけてくると、困る場合がありますが。
ーー会見の開催にあたり、弁護士のネームバリューは影響するのでしょうか。
T 影響します。著名な刑事弁護人や、話題のテーマをよく扱っている弁護士からの会見は、基本的に受けることとなります。
ーー受け付けた幹事社によって判断が会見の開催可否の判断が異なることはありませんか。
T ありません。著名な刑事弁護人以外で、よく会見を開く弁護士が扱っている事件は、原発の差し止めや一票の格差をめぐる違憲訴訟など、現在までの流れと違った判断が出ると、世間を賑わすものが多いです。提訴段階で原稿にするかはさておき、会見をやってもらうことはありがいたいです。
ーー知名度がそこまでない弁護士が会見を開きたい時は、どうすればいのでしょうか。
T 「何がニュースなのか」を説明できるのかがポイントになります。それが説明できないと資料提供にとどめてもらうことになります。
N 連絡する前に、訴訟の種別や訴えの利益などをまとめたA4、1枚くらいの資料を準備してもらうと良いかと思います。電話したあとに、そのFAXをもらえると重要性を伝えることができます。
T あとは、原告や被告が著名であれば、会見を受け付ける可能性が上がります。
ーー会見を開く場合と資料提供にとどまる場合は、どれくらいの比率でしょうか。
T 半々くらいではないかと思います。
N 弁護士としても、わざわざ時間を割いて、会見しても、誰も取り上げないようなら、資料提供に済ませるほうが効率的だとは思います。
当事者間で終わらない波及効果も1つの基準
ーー会見を受け付けてもらえない場合とは、どんな理由なのでしょうか。
T 電話を受けた幹事社が「ニュースではない」と判断したものです。弁護士から、よくあるのは「無罪が出そうなので記者会見やりたい」というものです。
N 痴漢事件や交通事故事件などは、連絡はよく来る印象があります。
T あとは、民事事件だと、会社間の揉め事など「相手方を叩きたい」という意図を感じるケースもありますが、基本的にお断りすることになります。
ーー「ニュースではない」というのは、どういう判断基準なのでしょうか。
T 新聞に掲載されないような話題は、基本的に難しいと思ってもらって良いとおもいます。「世の中的にバズっている」「聞いたことがある企業」というのは、会見につながりやすいです。
N 平たくいうと「公共性や公益性がない」ということではないでしょうか。当事者間の関係だけで終わらない波及効果が有るかどうかという言い方もできると思います。故・木村花さんの誹謗中傷に対する発信者情報開示は、インターネット上で匿名で悪口を書き込む人たちへの牽制効果があります。行政訴訟についても「公共性や公益性」の判断基準を満たしやすいとおもいます。一方、状況が千差万別な交通事故については、社会の交通事故が減るような事情がなければ、会見にはそぐわないと思います。
ーー一般的な弁護士がよく扱う、離婚や交通事故、相続あたりでは難しいでしょうか。
N どれも当事者特有の事情がありすぎるものではないでしょうか。よく知られた交通事故で、民事で過失相殺を争うにしても、会見になるかどうかは難しいですね。「民事不介入」的な思想がマスコミの根底にもあると思います。
ーー他にわかりやすい基準はありませんか。
N 「初」や「異例」と書けるものですね。
T 「初」や「異例」があれば、基本、会見を受けることになるかと思います。「こういう構成でやるのは初めて」というものでも、あまりに難解だったり、世間的に理解できないニッチな話題でなければ受けます。あとは、弱者が救済される可能性があるものは受付しやすいです。埋もれていた、気づかれなかった弱者が、裁判で救われる可能性があれば、扱う方向で検討します。
ーー現在、どういう話題なら会見になりやすいですか。
T 社会的に関心が向けられている話題なら、会見につながりやすいです。最近ですと、夫婦別姓やLGBTなどについてであれば、会見を受け付けることになると思います。あとは国会で審議されている法案、今だと少年法や入管法の改正に対する意見についても会見が開きやすいでしょう。また、法制審のテーマになるもの、なりそうなものは受けます。今だと、性犯罪の厳罰化や共同親権などでしょうか。
ーー記者クラブから開催を要請することはあるのでしょうか。
T ごく稀に、大きな話題で弁護士が取材に一切応じない場合に申し込むことはありますが、基本的にありません。