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東北弁連会長が語る被災地弁護士会の活動と役割〜弁護士が見た東日本大震災から10年〜

東北弁連会長が語る被災地弁護士会の活動と役割〜弁護士が見た東日本大震災から10年〜

2020年度の東北弁護士会連合会の会長を務める内田正之弁護士。震災当時は、仙台弁護士会で法律相談センター運営委員会の委員長の役職にあり、相談体制の構築などに奔走した。より被災者のニーズに合った支援を行うため、「災害ケースマネジメント」の手法が重要と語る内田弁護士に、震災当時の弁護士会の活動や、日本弁護士連合会との連携体制などについて聞いた(インタビュー:2021年2月26日)。

ーー東日本大震災の発生から10年を振り返った感想を聞かせください。

見事に復興を成し遂げた人もいれば、復興の途上段階にいる人も少なくありません。復興が遅れている例として、自宅が半壊や全壊に近い状態にありながら、避難所や仮設住宅ではなく、自宅に避難していた、いわゆる「在宅被災者」と呼ばれる人です。

災害救助法などの支援制度は、避難所から仮設住宅に移り、自宅を再建したり、公営住宅に移ったりした人を対象にした制度が中心となっていて、在宅被災者への支援は十分に行き届いていないことが少なくありません。

私自身、仙台弁護士会の災害対策本部及び災害復興支援委員会に所属しており、災害支援活動に積極的に取り組んでいたと自負していました。ところが、在宅被災者の存在に気付いたのは、震災から4、5年が経過した頃でした。

被災地に居住しながら何年も活動してきたボランティアから、在宅被災者について聞かされた時は、今まで問題を見落としていたことに気付きとてもショックでした。

ーー在宅被災者の支援が見落とされていた原因はどこにあったのでしょうか。

自治体と連携して、避難所や仮設住宅を回って相談を受ける取り組みは、震災直後から行なってきました。ただ、避難所や仮設住宅に避難している人以外に、法的な問題を抱えている人の情報をキャッチし、個別訪問するというアプローチが足りなかったのだと思います。

弁護士は基本的に、相談を受けてから、必要があれば受任するという姿勢なので、こちらから訪問して相談を受けるのは簡単ではありません。ただ、高齢者などは自分から弁護士のところに行くのが難しい人もいるし、そもそも自分の悩みが、弁護士の手助けにより解決できる法律問題だと気付いていない人も少なくありません。

そのような人にアプローチする方法を、弁護士会としてももっと検討しなければなりません。

ーー在宅被災者の存在に気づいてから支援は進んでいるのでしょうか。

たとえば宮城県石巻市では、2017年に自力での生活再建が困難な被災者に対し、必要な支援を講じるための「被災者自立再建促進プログラム」を策定しています。

在宅被災者に対しては、実態を把握するため、石巻市が戸別訪問調査を実施しました。調査の結果、支援が必要な判断した被災者に対して、市が委嘱した自立生活支援員などが訪問し、住宅の補修や健康支援など、状況に応じた支援制度を検討し、実施するというものです。場合によっては、弁護士が支援制度の申請などをサポートすることもありました。

このように、各被災者が抱える問題を把握し、様々な支援制度の中から被災者の問題に対応する支援制度を検討し、実施する手法を「災害ケースマネジメント」といいます。

「災害ケースマネジメント」は、被災者に合わせて各支援制度をコーディネートするようなイメージです。支援は自治体が中心となって行うことになりますが、弁護士も支援をサポートする役割を積極的に担っていくことが大切だと思います。

ーー震災発生直後の弁護士会の取り組みを聞かせてください。

震災が起きた3月11日は金曜日で、仙台弁護士会は週明けの3月14日に災害対策本部を立ち上げました。当時、法律相談センター運営委員会の委員長を務めており、相談体制の構築などを進めました。

3月23日から弁護士会として無料の電話相談の受付を開始しました。ライフラインが復旧するなど、ある程度状況が落ち着いたら相談があるだろうと想定していたのですが、今となっては考えが甘かったのでしょう。

電話相談を開始した時は一部で電力が回復しているくらいで、被害が大きかった地域は復旧の目処も立っていない状況でしたが、非常に多くの相談が寄せられました。常に電話回線が塞がっている状態で、何度か電話回線を増やしました。

電話の内容は法律相談というよりも、被害の状況や支援制度などに関する情報提供を求めるものが多かったと思います。本来、このような情報提供は自治体の役割なのかもしれませんが、被害が大きかった地域では行政機能がかなり低下していた自治体もあったので、多くの人が弁護士会に連絡してきたのでしょう。

ーー実際に被災地を訪問して相談対応することもあったのでしょうか。

3月25日から避難所で相談会を行いました。自治体の庁舎や公民館などに設けられた避難所で活動することが多かったと思います。

行政機能が低下している状況で、自治体の担当者と連絡を取って相談会を開くのは困難でした。自治体の顧問をしている弁護士や、市議会、町議会議員とつながりがある弁護士などがその自治体に連絡するなど、弁護士の個人的なつながりを通じて、相談会の実施まで段取りをつけることができました。

何カ所かの自治体で相談会を開く実績を積んだことで、他の自治体にも話が広まります。個人的なつながりのない自治体も含め、多くの被災地で相談会を開くことができました。

ーー弁護士会の取り組みに対して反省点はありますか。

個人的なつながりを通じて相談会を開くことができましたが、各自治体の防災計画などに、あらかじめ弁護士会と自治体の連携体制について記載があれば、よりスムーズに活動できたと思います。

宮城県内の14の被災した市と町を対象に、震災前に自治体が作成した防災計画をチェックしたところ、復旧復興に向けた自治体の業務に、弁護士などの専門家と連携した相談体制の構築を盛り込んでいたのは仙台市だけでした。

弁護士が避難所などで法律相談を行うことは、自治体や被災者としても歓迎されると思うのですが、自治体が防災計画に書かれていないことを実施するのは難しいでしょう。

震災をきっかけに、様々な専門家による相談を防災計画に盛り込んでいる自治体は徐々に増えつつありますが、全国的にはまだ不十分でしょう。言及がない場合、弁護士会が事前に協議し、防災計画に法律相談の実施を盛り込むように働きかけることが必要だと考えています。

自治体の防災計画に法律相談が記載されるためには、「大規模地震防災・減災対策大綱」といった政府の大綱の中で、復旧・復興に向けた対応のひとつとして、法律相談の体制整備などが言及されていることが重要でしょう。

日本弁護士連合会(日弁連)もロビー活動を行なっていると思いますが、日弁連会長が政府の中央防災会議などに、委員として参加できるようにすることも大切だと思います。

ーー震災対応について、日弁連との連携は取れていたのでしょうか。

震災発生後に行った電話相談は、想定していたより多くの相談が寄せられたため、弁護士会が負担する予定だった電話代も相当な額になりましたが、日弁連が全額負担してくれました。

また、仙台弁護士会では、震災の翌月から震災ADRを実施していました。震災ADRは申込手数料が無料で、解決時の成約手数料を通常のADRの半額にする仕組みなので、弁護士会としては赤字になる事業ですが、赤字部分を日弁連が補填してくれました。

当時は、弁護士数が増加している時期で、日弁連の会費収入にも余裕があったため、被災地の弁護士会に対する支援が財政的にも可能だったのだと思います。

他にも、日弁連の災害対策委員が中心となって、膨大な相談内容について、統計、分析を行うなどしてくれ、うまく役割分担ができていたと思います。

ーー日弁連との連携で反省点はありましたか。

震災後、被災地で支援活動をしたいと手を挙げた全国の弁護士が大勢いました。ただ、自治体とのつながりがないと、被災地で活動することは簡単ではありません。支援を申し出た弁護士の中には、現地の弁護士会が被災地で活動するための環境整備を行うべきと考える弁護士も少なくありませんでした。

人員の少ない福島や岩手では支援を申し出た弁護士の受け入れについての行き違いなどから、ときに他会の弁護士が独自の支援を実施したことで現場の混乱が生じ、被災地の弁護士会と支援した弁護士会との関係がぎくしゃくすることもありました。

日弁連が中心となって、被災地の支援活動を希望する弁護士を調整するという仕組みを、構築するべきだったと思います。

ーー東日本大震災からの復興に対し、弁護士会や日弁連がどのように貢献できたと考えていますか。

被災地で活動する弁護士は、被災者からの相談を受け、事件として受任することで、復興に貢献できると考えています。ただ弁護士会や日弁連の視点で考えると、個々の救済だけでなく、政策提言などを通じて、今後の災害に備える制度改正や立法などに結びつけることが重要です。

東日本大震災では、弁護士会が非常に多くの相談を受け、日弁連が相談内容を分析したことで、分析結果を立法事実として活用し、様々な制度改正や立法につなげることができました。日弁連との連携がうまくできたからこその成果といえます。

たとえば、震災遺族に支払われる災害弔慰金の支給対象に、兄弟姉妹は含まれていませんでしたが、東日本大震災後は、兄弟姉妹も支給対象となりました。また、被災した相続人の熟慮期間の延長も認められました。これらは弁護士会や日弁連から政府に働きかけなどがあって実現できたと考えています。

また立法につながった成果として、「義援金に係る差押禁止等に関する法律」の制定があります。住宅ローンなどの借金があった場合、災害弔慰金や生活再建支援金などを差し押さえられる可能性があったのですが、法律で、差し押さえが禁止になりました。

ーー今後の災害対策として課題に感じている部分はありますか。

「災害ケースマネジメント」を全国で実施することが重要だと考えています。

たとえば鳥取県など、東日本大震災の被災地以外にも、「災害ケースマネジメント」を取り入れている自治体があります。鳥取県では、2016年の鳥取県中部地震をきっかけに、「災害ケースマネジメント」を制度化し、各被災者が抱える問題に応じた支援に取り組んでいます。

「災害ケースマネジメント」を全国で実施するには、被災者支援や復旧・復興に関する基本法の制定が必要だと思います。法制化されれば、予算措置が期待できるので、各自治体も条例や防災計画の中で、災害ケースマネジメントの実施を盛り込むことができるでしょう。

立法化は現実には簡単ではありませんが、日弁連が各弁護士会と連携して取り組むことが重要です。採用した自治体の実例などを立法事実として集積していくことで、災害ケースマネジメントを採用することでどのようなメリットがあるのかを理解してもらい、立法にもつながると思います。

このような取り組みを進めるには、弁護士が災害対策に関心を持ち続けることも重要です。

私は宮城県で生まれ育ち、1978年の宮城県沖地震を大学生の時に経験しましたので、常に地震や津波を想定していたつもりでした。それでも、まさか生きている間に、宮城県沖地震の被害を超えるような災害が、また東北で発生するとは思いませんでした。

東日本大震災の発生後も、地震だけでなく、豪雨や台風などによる被害が発生し続けています。今まで大きな被害に遭ったことがなかったとしても、災害はいつ起きるか分からないので、普段から準備しておくことが重要です。

「被災地会責任」という言い方をよくするのですが、震災を経験した弁護士会として、震災時にどのような活動をしてきたのか、情報共有していくことも必要だと思います。

※画像はZOOMのスクリーンショット

内田正之弁護士プロフィール

仙台市出身。東北大法学部卒。1988年弁護士登録。仙台弁護士会の常議員会議長や会長、日本弁護士連合会副会長などを歴任。2020年度の東北弁護士会連合会会長を務める。

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