法律事務所名を大分析 人名か地名?長さは? 言語学やGoogleにとって望ましい名とは?【CHAPTER04】
法律事務所名は、顧客とのはじめての接点になりがちだ。独立する時に、どんな名前にするか考えることや、 今後考えようとしているケースも少なくないのではないだろうか。どのような事務所名が多いのか、同名の法律事務所はないのかなどを、弊誌独自の調査より紹介する。言語学者とGoogleなどの検索エンジンの専門家が考える望ましい法律事務所名についてのインタビューも掲載。 調査・取材・文/池田宏之 調査協力/魚住あずさ (弁護士ドットコムタイムズ<旧・月刊弁護士ドットコム>Vol.27<2017年11月発行>より)
CHAPTER04 Googleに好まれる・嫌われる法律事務所名とは
インターネットが普及し、Googleを始めとした検索エンジンで、法律事務所を調べる人も少なくなくなった。多くの情報が飛び交う中、近年では、「Search Engine Optimization(SEO、検索エンジン最適化)」と呼ばれる検索エンジンで検索された際、自身のホームページを見つけてもらいやすくする対策も広まっている。SEOの専門家である辻正浩氏に、SEOの観点から望ましい法律事務所名などについて聞いた(インタビュー:2017年11月6日)。
同名の事務所は避けたほうが良い Googleの仕組みとは?
―弁護士事務所名は、珍しくない弁護士の名字や一般的な花の名前などを冠して、同名になってしまう場合があります。オンリーワンの事務所名にすべきですか。
「自由に決めてください」というのが理想ですが、現時点では、真面目な話、重要です。
同名の事務所でも、離れた場所にあれば、遠方の事務所の情報をみても、検索を続けてはくれます。ただ、Googleは検索順位を決めるために、インターネット上の情報を収集した上で、名前に紐付いた情報の多さで「ブランド力」を判定しているため、情報収集を阻害しないという意味で重要です。可能な限り、同じ名前は避けた方が良いといえます。
―事務所名の変更に問題はありますか。
大手事務所で、その名前でブランドが確立されているようなところだと、大きな影響が出ます。ネット上に存在する情報と、新しい事務所名をうまく紐付けられなくなりますので。
一般的に事務所名を変えて、HPアドレスも変えると、認識されるまで「数週間から数ヶ月かかる」とされていて、半年かかるようなこともあり、注意が必要です。
地名を入れるのは価値あり 東京と大阪の特殊性とは?
―地名を事務所名に入れるのはどうでしょうか。
検索される地名を事務所名に入れるのは、SEO的には大変良いことです。
ただ、弁護士・法律関連の検索がない地名を入れても検索には影響がありません。例えば「札幌」や「渋谷」を入れるのは意味がありますが、「関東」などを入れても意味はほとんどないでしょう。
法律事務所の場合、検索に影響がある地名としては、東京や大阪などの大都市以外では市名が主になるでしょう。
―東京や大阪に特殊な部分はあるのでしょうか。
東京や大阪などの大都市では、検索される地名が細分化されています。特に東京では「新宿」や「渋谷」といった区の名前や、「青山」や「表参道」などの駅名や地名も十分に検索される傾向があります。
結局、どのように検索する人が顧客層になるのかを考えて、決めていく必要があります。例えば、地理的に渋谷区の端に所在していた場合、「渋谷法律事務所」の検索で上位表示されても、問い合わせには結びつきづらいと考えられます。
―東京で「区名+駅名」「市名+駅名」とすれば、区・市名で検索した人、駅名で検索した人、両方に対応できるのではありませんか。
確かにそうですが、それぞれの効果が弱まります。一概にはいいづらいですが、私がネーミングするとしたら、どちらかにしぼりますね。
―検索によるニーズを確認する方法はありますか。
Googleにより「キーワードプランナー」という、月間の平均の検索回数の概数を提供するサービスがあります。広告に100円くらい払えば、1ヶ月くらい使えますので、事務所名を考えるときに、使ってみるのはおすすめです。
―「朝日」「旭」「あさひ」「アサヒ」といった、聞いただけでは表記がわからない場合はどう考えますか。
特に避けなくて良いと思います。地元に「アサヒ」があるユーザが、「あさひ」で検索しても、結果は補正されるでしょう。名字などで、旧字体を使うケースもありますが、こちらも補正がかかると考えて良いです。
位置情報を重視するGoogle口コミも順位に影響
―Googleの検索は、近年、ユーザのいる場所を考慮して、検索結果を返しています。
ユーザの位置付近に近い場所は、明確に出やすくなっています。最近は、検索結果の中に、Google Map(地図サービス)の情報がでやすくなっていて、その場合もユーザの位置情報に近い施設が優遇されています。
「法律事務所」で検索をした場合、東京の場合は、徒歩圏内にある法律事務所を出してきますが、地方の場合は、市町村の自治体を範囲として、検索結果を返してくることが多いです。
―上位に確実に自身のHPを表示するためにできることはありますか。
1つ言えるのは(HPには複数のページがある中で)法律事務所名、住所、電話番号について、全てのページに表記を統一した上で、テキストデータとして入れることが重要です。
―近年Googleにおいても口コミ情報を収集しています。
Googleは地図も含めて、口コミ情報の件数と(星マーク5つによる)評価を、優先的に検索結果に出すかどうか判断するのに活用していると考えられます。
Googleが公表しているガイドラインを見る限り、口コミ情報の投稿を、割引・謝礼などの対価なしに、実際のクライアントに依頼するのは問題ないと理解しています。
ただ、対価を発生させたり、コメントを捏造・乱造した場合、検索結果そのものから削除される可能性がありますので、やめるべきです。
検索結果ではタイトルに注意 自サイトはツールで確認可能
―検索結果の画面の表示で重要なことはありますか。
難しい問題です。(検索結果で一回り大きい文字で表示される)「タイトル」と呼ばれる部分は、検索結果の中では一番重要な部分です。考えないといけないのは、法律事務所の場合は、タイトル部分の内容が非常に似通りがちなことです。
複数のHPが検索結果の中に並んでいるとして、1つだけ「無料相談」という文句が入っていたとすると、その事務所のHPを見る人が多くなると考えられます。
ただ、全てに入っていれば、「無料相談」の優位性はなくなります。その場合、「信頼感」「女性弁護士の在籍」など他の部分を訴えて、差別化することも考えられます。
―タイトルは、自分のHPが表示されている検索結果をみて、相対的に良い表現を考えるしかないのですか。
そうです。Googleが無料で提供している「Search Console」という機能で、自身のHPのキーワードごとの表示順位や訪問数を確認できますので、ツールの活用もおすすめです。
―口コミや個人ブログなどで悪評が立ってしまった場合の対応はどう考えますか。
検索結果からの削除は、弁護士が担う行為であり言及できません。
ただ、内容としてHPに置くのであれば、疑惑などが生じた場合、自社のサイト内で説明をしておくことは可能でしょう。また「事務所名+評判」での検索が、普段から多いことを考えると、HP内に利用者の声を集めたページをつくって「評判・クチコミをいただきました」などのように掲載しておくと、上位に近いところに表示されやすいです。伝えたいことをHP上で発信するのは良いことでしょう。
ほかにも、情報発信の経路を増やすのも重要です。HP以外にも、TwitterやFacebookのようなSNS、ブログなどで、発信するのは、検索結果を通じて有益な情報を発信する意味で良いと考えられます。
辻正浩氏プロフィール
1974年北海道生まれ。SEO専門会社「so.la」の代表取締役。SEOコンサルタントの経験を経て、2011年に独立。2015年にはDeNAが運営する医療情報サイト「Welq」による不確かな医療情報の発信と検索結果の上位独占について、いち早く疑問視する声をあげ、社会問題となり、注目された。NHK、朝日新聞、読売新聞などに、度々SEOの専門家として、コメントを寄せている。