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性別変更した男性を「父」と認定した最高裁 「判断のポイント」は何だったのか?
性別変更をした夫婦の間に生まれた子どもも、嫡出子として認められるようになった。

性別変更した男性を「父」と認定した最高裁 「判断のポイント」は何だったのか?

心と体の性別が一致しない性同一性障害を理由に、女性から男性に性別を変更した人が結婚し、妻との間に子どもをもうけた。妻が第三者から精子の提供を受け、人工授精で出産したのだ。この子どもについて、最高裁はこのほど、性別変更した男性とその妻の「嫡出子」(法律上の子ども)であると認める決定を下した。

2004年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(特例法)が施行されて以降、この障害を理由とした性別変更が日本でも認められるようになったが、これまで性別変更をした夫婦の間に生まれた子どもは、嫡出子として認められていなかった。

今回の裁判でも、1審と2審では、戸籍に「嫡出子」として記載することを求めた夫婦の訴えが退けられた。しかし最高裁は一転して、12月10日付けの決定で、生まれた子どもは「夫の嫡出子」であると認定した。

なぜ、最高裁は、嫡出子として認める判断をしたのだろうか。また、最高裁が行った決定の意義をどうとらえるべきだろうか。この裁判で原告を支えた三上侑貴弁護士に聞いた。

●「法律上の親子関係」は血縁関係だけでは決まらない

「結婚中の夫婦の間に生まれた子どもは、民法772条によって『嫡出子』と推定されます」

三上弁護士はこのように切り出した。民法772条は、子どもの福祉のために父子関係を早期に確定させ、身分を安定させるという趣旨の制度だ。

「今回の裁判で争点となったのは、夫が性別変更をしたため、夫と子の間で生物学的な血縁関係がないのが明らかな場合にも、民法772条によって『嫡出子』と推定されるかどうかという点でした」

国は従来、「遺伝的に子どもを作ることはできないから、子どもは嫡出子としては認められない」という見解だったが、今回、最高裁はこれとは異なる判断を下した。どういう理由付けがあったのだろうか。

●最高裁の決定は「人権の砦として出したメッセージ」

「最高裁は、民法と特例法の条文・理念に照らして、性同一性障害者の夫を一人の男性として、生来の男性と平等に民法を解釈・適用しました。

つまり、性別変更と婚姻を特例法で認めた以上、民法772条も適用すべきだと判断したのです」

たしかに、国として性別の変更は認めるし、結婚も認めるけれども、親とは認めない、というのはちぐはぐに思える。

三上弁護士は「最高裁は、法律上の親子関係は、生物学的な血縁関係だけで決まるわけではないと判断しました。これは、国が特例法で性別変更を認めた以上、当然の結論であるといえます」と強調したうえで、次のように話していた。

「最高裁が下した判断は、愛する人たちと家族関係を築いていこうとしている人を、社会が受け止め支えていこう、という表明と考えられます。

これは、立法や行政が何年も放置していた問題について、人権の砦である最高裁が出したメッセージとして、大きな意義があるものです」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

三上 侑貴
三上 侑貴(みかみ ゆうき)弁護士 らくさい法律事務所
GID法律上も父になりたい裁判弁護団。東日本大震災による被災者支援京都弁護団 事務局。Let’s DANCE法律家の会 事務局次長。茶のしずく石鹸被害救済京都弁護団。 家事事件や一般民事事件のほか、日々変動する社会で生まれる新しい問題にも積極的に取り組む。

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