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2015年02月11日 13時45分

「偏向報道があれば取材拒否する」 西宮市長の「表明」のどこに問題があったのか?

「偏向報道があれば取材拒否する」 西宮市長の「表明」のどこに問題があったのか?
「表明」について、市のサイトでは説明動画が公開されている

偏向報道があったら、取材拒否する――。兵庫県西宮市の今村岳司市長が1月下旬におこなった表明が、大きな議論を呼んだ。

今村市長は、在京テレビ局の制作した番組を問題視。西宮市が市営住宅の入居者を一方的に追い出しているような「偏向報道」をしたと主張して、1月23日の定例記者会見で次のように表明したのだ。

「報道機関が偏向報道と受け止められる報道を行った場合は、文書または口頭での抗議を行い、その旨を市の広報媒体で発信するとともに、改善されない場合は、当該報道機関からの取材は、一切応じないこととする」

だが、この表明に対しては異論が続出した。結局、今村市長は1月26日に再び記者会見を開き、「意図が正確に伝わるように」として声明の一部を変更した。まず、「偏向報道」という文言について「放送法の趣旨を逸脱し、重大な誤解を与える報道」と言い換えた。さらに「取材は、一切を応じない」という表現を「抗議を行い、改善を求める」に改めた。

このように今村市長は「偏向報道をした報道機関の取材には応じない」という姿勢を撤回したわけだが、最初の表明には、どんな問題があったと言えるのだろうか。元新聞記者の永野貴行弁護士に聞いた。

●「完全に中立な報道」は、幻想に過ぎない

「報道機関の最も重要な役割は、公権力が適正に行使されているかをチェックすることにあります。

報道機関が『取材』して『報道』するということは、主権者である国民の目となり耳となって情報収集を行い、『国民に情報を提供する』という行為に他なりません。

国民は提供された情報を判断材料の一つにして、選挙などを通じて政治に参画するわけです」

報道による情報提供は、民主主義の基盤となっているということだ。すると、特定の報道について、市が「偏向報道」だと判断した場合、取材を拒否することは不適切なのだろうか。

「報道に偏りはつきものです。完全に中立な報道など幻想に過ぎません。報道は、取材活動・編集作業・扱いの大きさなど、さまざまな思惑が集積されたものだからです。ある報道が『偏向』しているという意見はあって当然です。

しかし、公権力である市が、特定の報道を『偏向報道だ』として、報道機関に圧力をかけることは問題です。特に取材拒否の影響は、極めて重大だと言えるでしょう」

なぜ、取材拒否が特に問題なのだろうか?

「取材拒否は、国民の目や耳を塞いでしまうも同然です。恣意的な取材拒否がなされれば、他の報道機関も萎縮してしまう恐れがあり、公権力のチェック機能を果たせなくなってしまうでしょう。そうなれば、結局、困るのは国民です。

『取材拒否』を打ち出した西宮市長が、その判断の重大さをどこまで自覚していたのか疑問です」

●市は記者会見や広報で「主張」を展開すべき

法的にいうと、自治体がメディアの取材を拒否することは、できないのだろうか?

「公務員による取材拒否が直ちに違法とは言えない、という裁判例があります。したがって、事情にもよりますが、法的には自治体も取材拒否は可能です。

しかし、報道に誤りがあった場合の対応としては、適切だとは言えません。民主主義社会の本来のあり方からすれば、記者会見や広報などを通じて、市側の主張を展開すべきです」

報道については、どうだろうか?

「今回の件については、番組を放送した民放はすぐに謝罪したようですから、報道する側にも脇の甘さがあったのでしょう。公権力に報道へ介入する口実を与えないためにも、報道機関は自らの報道に責任を持つべきです」

永野弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

弁護士法人ながの法律事務所代表。元読売新聞社記者。記者時代には松本サリン事件などオウム問題の取材も担当した。
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