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高齢化社会の新しいサポート役 「市民後見人」とはなにか?
高齢化社会のサポート役として 「市民後見人」が期待される役割とは?

高齢化社会の新しいサポート役 「市民後見人」とはなにか?

高齢化が進み、「孤立死」や「無縁社会」などが大きな話題となる現代日本。一人暮らしで認知症になってしまったら、財産管理や介護施設の入居手続きなどは誰に任せればいいのか。そんなときのために、民法では「成年後見」という制度を定めている。

対象となるのは、認知症や精神障害などで判断能力が低下した状態が固定化してしまった人だ。そのような人の支援と保護のために、本人や親族、市町村長などの請求に基づき、家庭裁判所が「成年後見人」を選任する。成年後見人は、本人に代わって財産管理や介護保険受給手続などを行ったり、本人が結んでしまった悪徳商法の契約を取り消したりと、代理人としての権限を持つ。

これまで後見人になるのは主に親族で、関係の深い親族がいない場合は、弁護士や司法書士、社会福祉士がなるケースがほとんどだった。しかし報道によれば、埼玉県志木市在住の60歳男性が、家庭裁判所から「市民後見人」として選任されたという。また、各地で「市民後見人」に関するセミナーが開催されている。

この「市民後見人」とはどういう制度なのか。そして、どんな役割を期待されているのだろうか。高齢者問題に積極的に取り組む小此木清弁護士に聞いた。

●同じ地域の身近な人によるサポート制度

「市民後見人とは、認知症や精神障害などで判断能力が不十分になった人を支援するため、家庭裁判所から選任された地域の一般市民です。本人に代わって、『財産管理』や介護施設の入居手続などの『身上監護』を行います」

この「市民後見人」のどのような「資格」が要求されるのか?

「『市民』後見人は,判断能力が不十分になった人と、(1)同じ地域社会で生活する住民で、(2)その生活の中から物事を考え、(3)同じ地域の人たちと関係を築き、(4)共に地域で暮らしていく人です。

したがって、市民後見人は、地域社会での生活の延長線上で、判断能力が不十分になった人の立場に立って、その人の生活を支援するために何が最善なのかを考えることのできる素養を有していることが必要となります」

最近、後見にあたる弁護士や司法書士、社会福祉士などの数が足りないと指摘されている。そのために、市民後見人が期待されるようになったのだろうか?

「一般の市民後見人への期待が高まっているのは、今後、認知症高齢者が爆発的に増え、今まで後見人の受け皿となっていた専門職だけでは人材が足りなくなるという、消極的理由だけではありません。

たしかに、専門職は法律や福祉のプロでしょうが、判断能力が不十分になった人の『身上監護』という面では、その地域に生きる市民後見人の方々の経験値にかないません。それゆえ、高齢者の方々を支援するには、市民後見人の方々の力が積極的意味において必要なのです」

なるほど、専門職はプロではあるが、後見の対象となる人とは必ずしも深い縁があったわけではない。特に、介護事業者との間に入って交渉するという「身上監護」の面では、同じ地域でずっと身近にあった人にサポートしてもらうメリットも大きそうだ。

●後見業務の能力を高めるための「55時間のカリキュラム」

ただ、一般市民が同じ地域で生活してきたというだけで、専門職と同じように、高齢者などの「財産管理」ができるのかという懸念もある。

これを補うのが、最近、自治体や大学などで実施されている「市民後見人養成講座」だ。ここではどのような研修が行われているのだろうか。

「市民後見人を目指す市民の方々には、後見業務の知識や能力を補い高めるために、原則として55時間に及ぶカリキュラムを用意して学んでもらいます。

(1)認知症高齢者や障害者の実情を理解する

(2)福祉サービスの概要を理解する

(3)権利擁護をよく理解し、倫理観を高める

(4)成年後見制度を理念から後見事務まで理解する

このようなカリキュラムを経て、『社会・地域貢献』活動をする市民後見人候補者が誕生します」

さらに、「市民後見人が実際に後見業務に携わる際にも、専門職の支援の下に行うことになる」という。これからさらに進行する超高齢化社会。「市民後見人」に対する期待は、ますます高まっていきそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小此木 清
小此木 清(おこのぎ きよし)弁護士 弁護士法人龍馬
日本弁護士連合会・高齢者障がい者権利委員会、高齢社会対策本部委員。群馬県消費生活問題審議会委員。

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