中野 希美 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
最初の約4年半、裁判官に任官しましたが、経験を重ねるにつれ、個々の事件を画一化し、ルーティンで判断しがちになってきたことに気づき、弁護士として直接依頼者と接し、当事者として生の事案に触れたいと思うようになったからです。
裁判官だったころは、自分が最終的な決断を下すわけですから、自分のした決断が本当に正しかったのかという疑問を抱え続けましたが、弁護士は、「依頼者のために働く」という立場の違いから、自ずと仕事に対する姿勢が大きく変わったと感じます。
今までの経験と現在の仕事内容
弁護士として、当初は一般民事・家事事件から刑事事件(主に国選弁護事件)まで取り扱っていましたが、国選事件をあまり扱わなくなった現在は、民事事件が中心です。知人等からの紹介事件の関係で、中でも家事事件の割合が多くなっています。
今まで取り扱ってきた事件の中で、最も印象に残った事件は、国選弁護事件(刑事事件)です。
事件の内容は、交際中の男性が女性に対して凶器を示して脅迫したというものでした。被告人は一貫して否認(無罪主張)をしていましたが、検察が提示する証拠記録上は、有罪の見込みが非常に高いと予測されました。しかし、被害者である女性の証人尋問でその供述内容が大きく変わり、事件は大きく動きました。結果的には検察側の証拠を覆すことができたのです。
私自身、今までの弁護経験や先入観から覆すことは不可能だと見立てていたわけですが、この事件から、刑事弁護人として先入観を持って事件に当たることの危険性を痛感し、改めて刑事弁護のあり方を学んだという意味で、強く印象に残っています。
弁護士としての信条・ポリシー
最も意識し、実践していることは、依頼者の言葉にひたすら耳を傾けることです。
依頼者のお話は、ともすれば五月雨で、依頼者ご本人も意図せずに、話を断片で切り取り、スクリーニングし、また法律問題には無関係と思われるエピソードを含んだりしますが、実はその中に事案の真相を知る重大な鍵が隠れていることは少なくありません。また、依頼者の語りは時に記憶違いや虚構を含みますが、徹底した聴取りがこれらを明らかにするのに役立ちます。
聴取り重視の姿勢は、法曹(弁護士に限りません)としての実務の中心は、法の解釈・適用の前提となる事実関係の発見・確定にあるという信条にも繋がっています。
法律紛争は、前提事実が確定できれば、ほぼ自動的に論点整理ができ、多くの場合、画一的な法の解釈・適用により結論を導くことが可能です。司法試験やその後の実務を通じた学習と経験が端的に役立つところと思います。
しかし、前提となる事実関係は多種多様で、当事者間に鋭い対立もあり、一件として同じ事案はありません。個人としての経験では想定できない事実が存在することもまれではなく、そうである以上、依頼者のストーリーを知る段階で自身の経験に頼ることには大きな危険が伴います。
もちろん、当事者の語る虚構を見抜き、また、証拠からの事実認定を行うには、経験則が有用ですが、弁護士としては、やはり依頼者の経験したストーリーを知ることがまず不可欠であり、そのため、先入観や不十分な聴取りが原因で事案の実態を見逃すことは許されないという信念が生まれます。
以上は私個人の信条ですが、結果として、このような姿勢は、依頼者の弁護士への信頼感・結果への納得(自分の言い分はほぼ弁護士が拾い上げ、裁判所にも伝わったという実感)にも繋がるのだと感じてもいます。
関心のある分野
家事事件です。一般市民にとって最も身近で、法的サービスの充実が求められる分野だとの考えからです。
以前は家事事件の中でも離婚の相談が主でしたが、今は相続の相談も増えています。家事事件は個人からの相談が多いため、その事件が解決すると人の役にたっているという実感が湧きやすく、その人の人生の中で直接関わっていくわけですから、自分の中での満足感も一際大きい分野だと言えます。
ページを見ている方へのメッセージ
ここ数年で、法律解釈を扱うバラエティ番組が人気を博し、また、裁判員制度が始まるなど、弁護士業や法曹界はずいぶん身近になりました。ただ、個人レベルで考えれば、やはり自身の悩みを弁護士に相談するには敷居が高く、弁護士の利用には法外な費用がかかると信じる方が大勢ではないかと思います。
ですが、実際には、例えば公共団体が主催する法律相談で数十分話をするだけで解決する悩みもありますし、そのようなサービスを無料又は比較的安価で受けられることもあります。もちろん費用がある程度必要となる事案もありますが、まずは弁護士にアクセスを、それもより早期に。
私自身も、皆さんが司法サービスにアクセスしやすいよう、敷居を低くするために活動していきたいと思っています。そのために大阪弁護士会や公共団体から機会を頂いてカルチャーセンターに出向いたりですとか講師として出張授業を行ったりもしています。
その他に私個人ができることは、日々の業務を誠心誠意行うことくらいですが、このような機会に日ごろの思いを披露することが、ほんの少しでも役立てればと願います。