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太平洋上空で「機内出産」 生まれた子どもの「国籍」はどうやって決まるの?
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太平洋上空で「機内出産」 生まれた子どもの「国籍」はどうやって決まるの?

太平洋上空を飛んでいた飛行機の中で5月10日、女の赤ちゃんがうまれた。出産の現場となったのは、カナダのカルガリーから日本の成田に向かっていたエア・カナダの機内だ。搭乗客の女性が機内で産気づき、成田空港から北東に約565キロの太平洋上空にあった飛行機から、成田空港へ緊急着陸を求める通報が入ったという。飛行機は約1時間後、成田空港へ緊急着陸した。

赤ちゃんの両親は、ともにカナダ国籍。飛行機にたまたま乗り合わせていた医師が立ち会い、無事の出産となった。成田空港事務所によれば、赤ちゃんは空港への通報前に生まれたとみられ、母子ともに健康だという。

気になるのは、今回のように国際線の飛行機内で出産した場合、子どもの国籍はどのように決まるのかという点だ。国籍に関する法律問題にくわしい山脇康嗣弁護士に聞いた。

●国籍取得の「生地主義」と「血統主義」

「生まれてきた子がどこの国の国籍となるかは、国ごとの国籍に関する法律(市民権法や国籍法)の定めによります。本件では、カナダの市民権法と日本の国籍法を検討することになります。

子が生まれた場合、どのような要件で、ある国の国籍を取得するのか。すなわち、出生による国籍取得の考え方としては、大きく分けて、『(出)生地主義』と『血統主義』の二つがあります。

『生地主義』は、父母の国籍がどこであろうと、子が出まれた国(出生地国)の国籍を取得するという考え方です。それに対し、『血統主義』は、子がどこで生まれようと、親の血統に従って親と同じ国籍を取得するという考え方であり、自国民との血縁関係に基づいて自国の国籍を付与する主義です。

国籍に関する法律では、両主義が組み合わさって規定されていることもあります」

●「無国籍の削減に関する条約」とは?

では、カナダの市民権法はどのように定めているのだろうか?

「カナダ国籍を取得するかどうかについては、カナダの市民権法を検討することになります。カナダの市民権法は、基本的には、『生地主義』を前提としています。そのため、カナダで生まれた子は、父母の国籍がどこであろうと、カナダ国籍(市民権)を取得できます。

そこで、太平洋上を飛行中だったエア・カナダ機内で生まれた本件の子が、『カナダで生まれた』といえるかどうかが問題となります。

国際条約の1つである『無国籍の削減に関する条約』は、自国の船舶または航空機の中で生まれた者については、公海や公空内であろうと、また、他国の領海や領空内であろうと、常に自国の領域内で生まれた者とみなすとしています。

カナダはこの条約を批准しています。したがって、カナダのフラッグ・キャリアであるエア・カナダ機で生まれた本件の子は、この条約によって、常にカナダの領域内で生まれた者とみなされる結果、カナダの市民権法に基づき、カナダ国籍を取得します」

●日本は基本的に「血統主義」

日本の国籍法からは、どのように判断されるのだろうか。

「日本国籍を取得するかどうかについては、日本の国籍法を検討することになります。日本の国籍法は、基本的に、血統主義をとっており、父または母が日本国民である場合に日本国籍を取得します。

ちなみに、日本は『無国籍の削減に関する条約』を批准していません。したがって、日本船舶上あるいは日本航空機上で生まれたとしても、その地点が他国の領海や領空内であれば、日本の国籍法上、日本の領域内で生まれたとは扱われません。

本件の子の両親は、いずれもカナダ国籍ということです。よって、本件の子が血統主義をとる日本の国籍法によって、日本国籍を取得することはありません。したがって、本件の子は、カナダ国籍のみを取得するという結論になります」

このように、国際線の飛行機内で出産した場合の国籍取得は、なかなか複雑なようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山脇 康嗣
山脇 康嗣(やまわき こうじ)弁護士 さくら共同法律事務所
慶應義塾大学大学院法務研究科修了。入管法・外国人技能実習法・国家戦略特区法・国籍法・関税法・検疫法などの出入国関連法制のほか、カジノを含む賭博法制(ゲーミング法制・統合型リゾート法制)や風営法に詳しい。第二東京弁護士会国際委員会副委員長、日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(法務省入国管理局との定期協議担当)。主著として『〔新版〕詳説 入管法の実務』(新日本法規)、『入管法判例分析』(日本加除出版)、『技能実習法の実務』(日本加除出版)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規)、『外国人及び外国企業の税務の基礎』(日本加除出版)がある。「闇金ウシジマくん」「新ナニワ金融道」「極悪がんぼ」「銀と金」「鉄道捜査官シリーズ」「びったれ!!!」「ゆとりですがなにか」など、映画やドラマの法律監修も多く手掛ける。

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