キムタク演じる久利生公平に憧れ法曹の世界へ。元検事の「経験」と「覚悟」で依頼者と向き合う
『HERO』を見て検事を志す
ーー若杉先生は元検事だそうで。検事を目指したきっかけを教えていただけますでしょうか。
完全に恥ずかしい話なんですけど、木村拓哉さんの『HERO』を見て、検事に憧れて司法試験の勉強をして…という、そんな単純なきっかけです。
ーーそういう方は、世代的に結構いらっしゃるのでしょうか。
そんなにいないかな。同期がたぶん78人なんですけど、自分みたいに、『HERO』が検事を目指すきっかけになった人はいなかった印象です。でも、先輩・後輩と話すなかで「俺もあのドラマ大好きなんだよね」という人はたくさんいましたよ。
ーー大学時代はどんな過ごし方を?
2浪したこともあって、「2年間ぐらいは遊び呆けよう」と決めていました。大学ではいわゆるイベントサークルみたいなサークルに入って、あとは麻雀ですね。大学の周りにたくさん雀荘があって、そこに通っていました。大学よりも、雀荘とサークル棟に行っていました。
でも、遊ぶのは2年間と決めていたので、その後はしっかり切り替えて勉強していました。 大学受験のときはがむしゃらに頑張るだけで、戦略をなにも考えていませんでした。だから、司法試験のときは仲間と念入りに分析して、「このレベルの答案が書ければ受かるんだな」という自信を得てから受験しました。
検事になった理由は「正義感」
ーーキムタクきっかけで検事を志した若杉先生ですが、法曹三者のなかから選択する段階でも変わらず検事を選ばれました。
もともと、正義感が強い人間なんだと思います。もちろん、弁護士として商売している今はお金の計算もしなきゃいけないけど、モチベーションの根幹にあるのは「熱くなれるか」「苦しんでる人、助けなきゃいけない人を助けられるか」ということ。それは昔も同じで、そのときは「弁護士より、検事のほうが役立てるかな」と思って検事を選んだんです。
たぶん、僕はIQは高くはないけど、EQ(心の知能指数)は高いタイプなんだと思います。だから、「被害者のため」という気持ちがある一方で、同じくらい、「被疑者・被告人のため」という気持ちもあって。彼らに共感して、助けたいんですよ。
実際、検事として多くの事件に触れるなかで感じたのは、犯罪に手を染めた人たちのほとんどは、なにかしら育った環境に問題があるということ。環境に問題があるから、何を頑張っていいかもわからないし、頑張り方も教えてもらってないんです。そういう人たちと取調べの中で話して、「もう一回人生やり直してみようかな」って思ってもらえるような仕事ができたらいいなという気持ちが強かった。
ーー「悪者を裁く」イメージが強い検事ですが、そういう人ばかりではないんですね。
僕が『HERO』を好きになった理由のひとつが、「不起訴になるケースもたくさんある」というところなんです。刑事ドラマって、ほとんどが犯罪者を逮捕して「やったぜ」ってなるんですけど、『HERO』は必ずしもそうではない。
あとは、これも『HERO』の中でキムタク演じる久利生公平が言うことなんですけど、「ブレなくて済む」のもいいなと思ったポイントです。弁護士は、事件や依頼者によって、ときに真逆の主張をしなければならないことがあります。一方、検事はそうじゃないので、シンプルでいいなと思ったんです。
ーーその検事から、弁護士に転向した理由は?
自分の考えと合う上司もいれば合わない上司もいて、前者のときはプライベートなんてなくても平気ってぐらい楽しいんです。逆に、納得できない指示を出してきたり、価値観の合わない上司のときでも、その上司の命令に従う必要がある。それが僕には耐えられなかったんです。とくに決裁制度が厄介で、上司の決裁印をもらわないと、対外的には、ほとんどのアクションが取れません。
あとは、組織人として過ごすようになって、僕自身に変化が起きたのも一因でした。もともと誰に対しても本音で喋れる、いい意味で空気を読まないタイプの人間だったのに、「効率よく決裁を得るために、この上司にはこういう見せ方をしよう」とか、「事務官が早く帰れるように決裁を早く通そう」と空気を読むような考えをするようになった。出世したいとも思うようになった。どれも、久利生公平なら絶対思ってもないことですよね。
ーー昔憧れた、久利生公平像から離れてしまったんですね。
そうですね。検事はやりがいのある仕事だったと今でも変わらず思っていますが、久利生公平にはなれないと思ってしまった。人って、家族とか部下とか、守るものが増えるとどうしてもぶれちゃうんすよ。
検事時代から変わらない「圧倒的な覚悟」
ーー弁護士として働くなかで、検事を経験したからこその強みは?
刑事事件に関しては、圧倒的に、検事の経験がない他の弁護士とは違うという自信があります。検事は刑事事件しか取り扱いませんので、刑事事件の経験はどんどん積み重ねることができます。検察庁という組織がどんな場所か、具体的には主任検事や決裁官がどんな考え方をするのか、また、警察はどのように考えて動くのかということもよく知っています。 その点は、私が刑事弁護をする上での1番の強みだと思います。 また、検事時代に僕を育ててくれた先輩が今年(令和3年)の3月に検事を辞めて、今、同じ事務所で弁護士として共に働いています。二瓶祐司弁護士という方なんですが、僕と彼が組めば、刑事弁護に限っては他の弁護士には絶対に負けない自信があるんですよね。
ーー弁護士になってから印象的だったエピソードは?
色々ありますが、最初に担当した裁判は印象的でした。覚せい剤の密輸事件で、最終的には無罪を勝ち取ることができました。無罪を勝ち取ることはできたのですが、そもそも、あの事件は起訴するべきではなかったと思うし、僕が担当検事だったら起訴しなかったと思っています。
でも、弁護士になって驚いたのは、「何でこんな事件を起訴したんだろう?」と感じる事件が結構あるということです。主任の検察官が「この人は有罪に間違いない」「絶対にやった」という確信を持つことができなければ起訴するべきではないんですが、この事件を起訴した検察官は、この被疑者が故意に罪を犯したという確信を得られた上で起訴したのだろうかと疑問に感じることが結構あるんです。
私が担当した覚せい剤の密輸事件も、その被疑者が故意に覚せい剤を密輸したという確信を持つには至らなかったのに、「覚せい剤だと知らなかったという主張は、罪を逃れるための虚偽の弁解に違いない。このような弁解を通して不起訴にすると、覚せい剤の密輸という重大な犯罪をみすみす見逃すことになってしまう。起訴しないわけにはいかない。」という判断で起訴したのではないかと感じました。
もしかしたら、その被疑者は外国人だったから、仮に無罪になったとしても、世間から強いバッシングを受けることはないだろうという価値判断も働いたのかもしれません。でも、僕は、そのような考えて起訴することは許されないと思っています。起訴するということは、裁判が終わるまでの数か月間その人の自由と人生を奪うことになるし、仮に有罪になってしまえば、その人の人生を数年単位で奪う、場合によっては命すら奪うことになるわけですから、間違いなくこの被疑者がやったという確信が得られないのであれば、その者を起訴するべきではないと思っています。
ーー有罪の確信が持てなくても起訴する……そんなことがあるんですね。
僕自身は、検事時代、それこそ命がけというか、自分が起訴した事件が無罪になったら、特に真犯人ではない人を起訴してしまったら腹を切るくらいの覚悟で事件に臨んでいました。でも、残念ながら、それぐらいの覚悟を持っている検察官は必ずしも多くないのかもしれません。
これは検事時代のエピソードですが、僕が捜査に関わった事件で、ある被疑者の起訴に反対した事件がありました。結局、上級庁や上司の判断も働いて別の検事によって起訴されることになったわけですが、結果的には無罪になりました。もちろん、僕の考えの方が正しかったのだと伝えたいわけではありません。ただ、起訴反対する検察官がいるにもかかわらず起訴をして、無罪になるなどということは本来許されないのではないかということです。検察官は、真剣に、覚悟を持って事件に臨まなければならないと思います。
企業を支え、弱者には平等とチャンスを
ーー弁護士として今後どうしていきたいとお考えでしょうか。
地方で頑張っている企業に関わる仕事を増やしていきたいと思ってます。離婚や遺産分割等の個人事件より、企業事件の方が楽しいと感じるようになりました。たぶんそれは、最終的には、「企業を強くして、国を強くしたい。国を強くすることで、国民の生活を守りたい、豊かにしたい。」という気持ちが根底にあるからだと思います。
もちろん、困っている、苦しんでいる個人を助けることは当然必要なことだし、それが弁護士の使命だと思っています。しかし、僕としては、「まずは企業を強くしなければならない。」という気持ちが強いんです。福岡はこれから金融都市を目指すかもしれないから、そのときに金融都市への道のりを助けられるような弁護士になっていたいと思っています。
そうやって企業の役に立つ一方で、正義や平等も突き詰めていきたい。「平等と公平」という単語でググると、背の高さが違う3人が野球の試合を見ているイラストが出てくるんですけど、その絵では、背が一番低い人はフェンスで野球が見えず、他のふたりは見える状態なんです。
でも、今の日本では、みんなに同じ踏み台を配るのが平等だとされていて、実際にそういう政策が多い。結果、不公平が維持されて、チャンスを得られてない人たちがたくさんいます。一番小さい人に、背の高い人の分の踏み台を2つ与えてあげられる…そんな社会になっていくのが、僕にとっての理想です。そうしていくために、弁護士として何ができるのかを常に考えながらやっていきたいですね。
ーー法律トラブルを抱えて悩んでる人たちに、メッセージをお願いします。
もし苦しんでおられるなら、弁護士に相談すれば楽になるかもしれません。
依頼者の話を聞くなかで、僕のほうが腹が立って、「それは許せないですね」「そんなに我慢される必要はないですよ」って怒っていると、「先生にそう言ってもらえて、なんだかすっきりしました。心が落ち着きました。」と言われることが結構あるんですよね。そんなふうに、話すだけで楽になることもあると思うし、抱え込まないでいいんじゃないかなって思います。もし、戦うことが必要なのであれば、僕と一緒に戦いましょう。