恩師の言葉をきっかけに弱者救済の道を志す 犯罪被害者支援を主眼に依頼者の人権を守る
「責められている人間をかばうような人間になれ」
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
中学時代、吹奏楽部の顧問であった恩師からかけられた「一緒に責めるのではなく、責められている人間をかばえるような人間になれ」という言葉がきっかけです。
あるとき、部長の指揮の取り方に不満を持った部員たちが、部活中に部長を取り囲んで不満をぶつけたことがありました。私もその一人で、多数でひとりを責めたその行動が間違っているとは考えませんでした。その後恩師に呼び出されたときにかけられたのがその言葉です。
多数が正しいと考えて少数者を責めているときに、少数者の立場で考えるーー。そうした視点をもらえたことが弁護士の仕事に繋がったのではないかと思います。
ーーどんな学生生活でしたか?
大学は法学部に入学し、初めて法律に触れました。平等や人権といった憲法の考えに感動しましたし、刑法は身近に感じました。非常に面白く学ぶことができて、まったく苦ではなかったです。
勉強以外では、遺跡発掘現場での作業や劇団四季の劇場でのチケットもぎりなど、様々なアルバイトをやりましたので、充実した学生生活を送っていました。
ロースクールに入ってからはひたすら勉強の日々でした。司法試験に向けての勉強はもちろん役に立ちましたが、交渉について学ぶ実践的な講義が今の実務でも役立っています。
不十分な制度の中、犯罪被害者支援に注力し依頼者に寄り添う
ーー弁護士になられてからの注力分野をお聞かせください。
刑事弁護も行っていますが、もっとも注力しているのは犯罪被害者支援です。刑事弁護活動を通して、被害者側の支援が不十分であり、また、性犯罪の被害者については女性弁護士のニーズが大きいと感じたので、力を入れるようになりました。
憲法で被疑者や被告人の権利が守られるように、被害者も基本的人権が守られるべきであり、そのために弁護士が必要だと思います。
ーー犯罪被害者支援とは、具体的にどんなことをするのでしょうか?
被害者がそもそも誰に相談すべきかもわからない場合もあります。法律的な視点から、まず警察への相談を促したり、証拠集めのアドバイスをするだけでなく、カウンセラーや行政機関といった支援機関を紹介します。また、被害者を守るためにマスコミ対応することもあります。
その後は、損害を賠償してもらうために加害者側との示談交渉をしたり、刑事裁判の中で被害者が参加人として自分の思いを伝えられるようにサポートしたりもします。
ーー日本の制度上、犯罪被害者支援は不十分なのでしょうか?
現在は刑事損害賠償命令の申し立てという制度があって、民事裁判を起こさなくても損害賠償を受けられる場合があります。ただし、この制度は窃盗などの財産犯の被害者は利用できないので、不十分な面があります。
加害者が賠償金を払わないと、被害者が泣き寝入りすることになります。仮に民事裁判で勝訴判決を得ても、そもそも加害者に支払い能力がなければ意味がありません。
最近では、犯罪被害給付制度という、事件の被害者や遺族に国が一時金を支払う制度も設立されましが、この制度も完璧ではありません。
犯罪被害者支援をやっている弁護士が増えることで、より支援の手が届きやすくなると思います。特に、性犯罪における女性の被害者は男性全般が怖いという恐怖感を抱く方もいらっしゃるので、そうした被害者の心情を理解するより多くの弁護士が生まれることが望ましいです。
ーー犯罪防止には何が重要でしょうか?
犯罪の被害がいかに重大かを認識することが大事です。
例えば、性犯罪の被害は、身体への直接的な被害のみならず、精神的トラウマにより外に出られなくなってしまうケースもあります。このような被害は、強姦のように重いケースだけではなく、身体を触られたような場合でも発生する可能性があります。
性犯罪は、被害者は一生トラウマを抱えていきます。こうした犯罪被害の深刻さを一般の方がより理解し、共感することが犯罪の防止につながるのではないでしょうか。
ーー依頼者とコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
絶対に否定しないことです。辛い思いを抱えて相談に来ているので、疑問を投げかけてしまうと相談者は自分が責められていると勘違いしてしまいます。弁護士の疑問は後回しにして、依頼者と同じ方向を向いて話を聞くようにしています。
ハンセン病家族訴訟で培った、聞く姿勢と諦めない気持ち
ーー弁護士として活動してきた中で、特に印象的だったエピソードをお聞かせください。
ハンセン病家族訴訟に関わったことがありました。辛い記憶を封印してきた人たちなので、最初は「先生には分からない」という言葉を何人ものご家族から言われました。自分の人間力のなさや弁護士としての未熟さを思い知らされて、とても申し訳なかったです。しかし、あきらめずに接したことで原告の方々から少しずつ話を聞き出すことができました。
訴訟が終わって、「池田さんが泣きながら話を聞いてくれた時、こんな弁護士もいるのかと思った。だから話をしようと思った」と言ってくれた原告の方がいました。その時、嬉しくてまた涙が出てきました。これからも諦めず、私なりに一生懸命頑張ろうと決心しました。
ーー休日のお過ごし方を教えてください。
インドア派なので、観葉植物を育てたり、明るいうちからお風呂に入りながら本や漫画を読むのが好きです。最近読んだ漫画で面白かったのは「ミステリと言う勿れ」。あとは、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」というエッセイが興味深かったです。
観劇も好きで、東京に出張する際は時間が取れれば必ず歌舞伎座で舞台を観ています。歌舞伎には様々な決まりごとがある中、セリフや衣装、舞台の変わり方で豊かに表現するところが魅力です。
ーー先生の今後の展望についてお聞かせください。
引き続き被害者支援を中心とし、自信を持って仕事ができるように力をつけたいと思います。家事事件や交通事故も扱っているので、これらの分野の専門性も高めたいです。
新しい分野としては、建築訴訟の分野により深く携わりたいと考えています。家は買う人にとって一生の買い物です。違法建築などの被害に遭うと、買主は訴訟など大変な労力を使わなければ被害を回復できません。そういった方々の支援をしたいと思います。
ーー法律トラブルを抱えて、悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
刑事事件でも、民事事件でも、「もっと早く弁護士に相談してくれたらよかったのに」と思うことがあります。例えば、借金を重ねたことが原因で犯罪に手を染めてしまう人がいます。そんな人も、弁護士に相談すれば債務整理という手段を知り、犯罪に手を染めることなく生活を再建できたかもしれません。
弁護士は万能ではないけれど、一人で悩んで大事になる前に行動することが大切です。ぜひご相談ください。