「弁護士は依頼者のトランスレーター」思いや願いを法律語に翻訳し、最適な結果を導く
学生運動に没頭
ーーまず、先生の学生時代について教えてください。
大学に入学したときはちょうど、学生運動の真っ只中でした。私も国家や社会のあり方に対して疑問を持っていたため、運動に参加して、けっこう過激なこともやりました。ヘルメットをかぶって、日本民主青年同盟(編注:15歳から30歳までの青年が所属する、日本共産党の下部組織)の諸君と殴りあったりしていましたね。特定の党派には入りませんでしたが、もし入っていたら、殺し合いもしていたかもしれない。そんな時代でした。
型破りでおもしろい人たちが多かったです。ストライキとかをする一方で皆それなりに勉強もしていました。しょっちゅう中洲に出入りして灰皿でヤクザを殴り飛ばしていたような人が、大学院に進学して研究者になったり。ドストエフスキーを読み込んでいる人もいました。
学生運動の熱が落ち着いて、卒業が近づいた頃、ふと「法学部に入ったくせに、法律を全然勉強してないな」と気づきました。経済学や社会学、政治学なんかは勉強して、社会や経済の仕組みはだいたいわかっていたけれど、実際に社会を運営する道具である法律を全然勉強していませんでした。そこで初めて、法律を勉強してみようと思ったんです。
ーー何がきっかけで、弁護士を目指そうと思ったのですか。
端的に言うと、就職先がなかったからです。
学生運動が終わって、周りがどんどん就職していく中で、私は卒業後の進路を決めきれず悩んでいました。塾の講師のアルバイトをしていたんですけどね。受験塾だったので、福岡県の公立高校の入試問題を研究して、徹夜で模擬テストを作ったりしていました。ただ、小さい塾だったので、そのまま就職しようとは思わなかったです。
すでに法律の勉強を始めていた頃で、「就職先なくなったなあ。じゃあ司法試験を受けて弁護士にでもならんと」と思って、司法試験の勉強にシフトしました。だから、他の先生みたいに最初から弁護士になろうと思っていたわけではないんです。
司法試験の勉強を始めたのが27、8歳頃だったと思います。実際に弁護士になったのが40歳を過ぎてからなので、けっこう時間がかかりました。
依頼者の気持ちを受け止め、方向性を示す
ーー弁護士になられて、仕事をするときに心がけていることを教えてください。
弁護士は、依頼者のトランスレーター(翻訳者)だと思っています。一般の方は、自分の思いを法律の言葉に置き換えることができません。依頼者に代わって、その気持ちや願いを法律の言葉に翻訳し、その人にとってできるだけ有利な結果を導くことが、弁護士の役割だと思います。
弁護士になったとき、修習地が大分県だったのですが、県内で一番大きい事務所の偉い先生から「依頼者はわからんのだから、あなたが決めてあげなさい」と言われました。何が一番有利な解決なのか、依頼者にはなかなかわからないので、弁護士が方向性を決めてあげなさいという意味だと解釈して、なるほどなあと思いました。
ただ、いくら弁護士が方向性を示しても、依頼者自身が納得しないと話が前に進みません。納得してもらうために、まずは依頼者の気持ちを受け止めるようにしています。その上で、間違った思い込みをしているようであれば正したりして、客観的な視点から話を整理し、最終的に一番よい方向に導いていくことが大切だと思います。
ーー特に注力している分野はありますか。
幅広く手がけてきたので特に注力している分野はないですが、一番多く扱ったのは交通事故です。今の事務所が損害保険会社の顧問をしていて、交通事故案件が次から次に入ってきます。これまでに160件くらい担当したので、大概の事案であればすぐに見当をつけられます。
ーー弁護士として活動してきた中で、印象に残っているエピソードを教えてください。
ある離婚事件が印象に残っています。
離婚事件では、「こういうこともあった、ああいうこともあった」と依頼者の気持ちを代弁しすぎると、相手方が感情的になって、和解しづらくなってしまうことがあります。
ただ、この事件では、依頼者の言い分を細かく代弁したことが、怪我の功名的によい方向につながりました。
浮気した夫が別居をして離婚を申し立てた事件で、私は妻側の代理人を務めました。夫は浮気相手と暮らし、相手との間に子どももいる状況でした。妻から聞いた話を細かく書面に記載して相手方に送ったところ、浮気相手がそれを読み、「私と関係ができていた時期にも奥さんにこういうことしてあげてたの?」と怒り出したそうなんです。
夫は浮気相手からギャンギャン言われて参ってしまい、さっさと事件を終わらせたいということで譲歩してもらい、和解できました。こういう事件はあまりないので、印象に残っています。
休日は読書三昧 インド情勢に注目
ーー休日はどのように過ごしていますか。
一日中、本を読んでいることが多いです。今はカミュの『ペスト』を読んでいます。藤沢周平の小説も好きです。
世界情勢に関する本もよく読んでいて、今はインド情勢に注目しています。これから、中国の次に台頭してくるのはインドだと思います。インドについて知りたいなら、『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』は絶対に読んでおくべきです。どちらも古代インドの長編叙事詩で、インド人の共通の文献です。抄訳版の文庫も出ていますよ。神様がたくさん出てきて名前を把握するのが大変なので、若いうちに読んだほうがスムーズに読み進められるかもしれません。
ーースポーツ観戦もお好きだとか。
たまにテレビで、ラグビーやサッカー、バスケットボールの試合を観戦しています。今年のオリンピックでは柔道と女子バスケに注目していました。
私自身は柔道と水泳をやっていました。以前は2時間くらい泳ぎ続けても平気なくらいスタミナがありました。
今は遠ざかってしまいましたが、社交ダンスを習っていたこともあります。昔、『戦争と平和』という映画の中で、ヒロインのお父さんとお母さんが、パーティーでワルツを踊っているシーンがあったんです。それを見て、「社交ダンスは歳をとっても夫婦で楽しめるものなのかな」と思い、習い始めました。優雅に踊っているように見えて、かなり体力を使うんですよ。
ーー今後の展望を教えてください。
これまで、自分のもとに来た仕事を一生懸命やってきました。ただ、一生懸命になるあまり時間をかけすぎると、解決までにかかる時間も長くなるので、かえって依頼者のためにならない場合があります。どのくらい時間をかけるべきか、1件1件見極めながら対応していきたいと考えています。
ーートラブルを抱えて悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
だいたいの方は、相談に来られるタイミングが遅すぎると思います。「もうちょっと早く来てくれたら何とかなったのに」と思うケースは少なくありません。法律相談は敷居が高いかもしれませんが、とにかく早め早めに相談に来てほしいです。
「こんなんで相談になるのかな」と思うような段階で来てもらえると、一番早く解決できます。お気軽に相談にいらしてください。