
真面目で優しすぎる人の代わりに「権利を実現」。仕事でも、趣味のゴルフでも「人」を大切に
商学部で弁護士を志すも「人生どうなっちゃうんだろう」と悩んだ日々
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
明確に弁護士を志したのは大学3年生くらいです。
もともと、私は商学部出身で、法学部ではないのです。ただ、当時から「資格を取得して、職業でも資格を活かしてやっていきたい」と思っていました。例えばどこかの企業に就職するとしても、なんらかの資格を持って専門的な仕事をしたいなと。
でも、色々と届く入社案内のパンフレットを手に取ってみても、なにがやりたいかはまだ見えてなくて。また、専門職と言うと、わたしの通っていた商学部では会計士が身近だったんですけど、数字にふれるのがあまり面白いとは思えませんでした。
そうするうちに、次第に「人との関わりを色々と持つことができて、他人のために役に立つ機会が多いのではないか?」と考えるようになって、弁護士という仕事を意識し始めました。
ーー商学部から法律の道に進むのは、大きなシフトチェンジでしたか。
そうですね。ただ、わたしの母校の商学部では学科が設置されておらず、当時は商法や会社法と言ったものを学部の中で教えて頂くことが可能でした。なので、そこまで違う学問をしないといけないという意識はありませんでした。
そんな中、大学3年生の時にゼミが始まったんですけど、わたしは『民法』という、法律系のゼミに入りました。担当の教授が法学部も兼務されていた方で、そういうゼミは商学部の中でも2~3つしかなかったんですね。ですので、周囲にも「法律のほうが好きだ」という人が集まっていて。そういう仲間たちと接し、話を重ねるうち、自然と法曹志望になりましたね。
ーー弁護士の方って法律に一直線というイメージがありました。
私は違いましたね。色々、将来について試行錯誤です。あとは当時、高田馬場の駅前に『他学部からでも、1年半で司法試験に受かる!』みたいな看板がありましてね……わかります?(※編集注:偶然ですが筆者は先生と同じ大学の後輩でした)
ーーいえ、あやしい学生ローンの看板しか思い出せません(笑)
ビッグボックスの近くにあったんです。単なる専門学校の宣伝の看板なんですけど、当時のわたしは『他学部でも合格できるのかな?』と思って。今思えば勘違いだったんですけど(笑)
ーーでも結果的に弁護士になってますし、勘違いでもなかったかなと(笑) 予備校の勉強は大変でしたか。
予備校の勉強が大変というよりも、当時はロースクールが無く、司法試験の合格率が2~3%しかなかったじゃないですか。だから、資格スクールに行っても「自分の人生はどうなっちゃうんだろうな」っていう不安のほうが大きかったですね。
ーーそれを、高田馬場のビッグボックス近くで考えられていたと。
そうですね(笑) でも自分で、就職活動をせずに専門職で食べて行きたいと選んだ以上、やらざるを得ないですから。
ーー当時は就職氷河期でしたが、弁護士の道を選択することに影響しましたか。
ありましたね。やりたいことがよくわかってない大学生でしたし。かと言って、資格で食べていきたいとも思っていたし。そうなってくると、美辞麗句を並べて企業のエントリーシートを記入するという気持ちにならなかったですね。
傷ついた「優しすぎる」人の代わりに権利を実現
ーー弁護士になられてからの注力分野を教えてください。
顧問業務を含む中小企業法務、特に労使関係、あとは離婚、相続などの家事関係に注力しています。
ーー労使関係では、具体的にはどんなことを?
労働者、使用者双方に言い分があって、それぞれの主張を法的に構成することは可能です。ただ、双方主張のどちらが正しいかという判断だけで解決するのではなくって、労使が、互いに立場が違うことを認識したうえで、どこであれば妥結可能かを探っていくことに醍醐味があります。労使は対立していても、「気持ち良く働くことが出来て、かつ、利益もきちんと確保できている」という状態が、互いに利益相反しない共通の目的でもあると思います。
また、人の怒りには、実は前提の部分にボタンのかけちがえであったりして、弁護士が助言することで和解できたりします。「法的にはこういう評価になる」という基準を示して説明するけど、それだけにとどまらず人間関係の調整で解決に導けることにやりがいと面白みを感じています。
ーー弁護士として活動してきた中で、印象的だったエピソードはありますか。
紛争は対人間が多いので、すべてが印象的ではあるんですけど、ひとりでは自分の権利を実現できない方の権利を実現してあげられたときは「良かったなあ…」と思いますね。
たとえば、昔ながらの熟年離婚のケースでは、「なんの財産分与もなく、離婚するのが当然。仕方がない」と思い込んでいる女性がいらっしゃいます。真面目な方ほど権利をあまり主張せずに、不満を持ちながらも我慢されることが多いんですね。そういう方の正当な権利を主張して実現を手助けすることは大事だと思いますし、そうやって解決した案件は印象的ですね。
ーー熟年離婚では、女性が我慢しているケースが目立つのでしょうか。
人それぞれのキャラクターにもよりますけど、でも、「優しすぎますね…」と感じてしまう方はいらっしゃいます。弁護士は事件を終結させてしまえば関係が切れてしまいますが、特に家事事件だと当事者間の人間関係は弁護士の手を離れても繋がっていることが多いです。なので、一方の権利を無理矢理にガンガン主張するのが妥当とは思いませんし、できる限り双方納得できる辺り、つまり落とし所を探して解決するのが最良と思っています。ただ、相談を聞いていると「そこまで我慢して傷つかなくてもいんじゃない?」ということも珍しくない。だからこそ、「傷つくくらいだったら代わりに言って、あなたの権利を正当な範囲で実現してあげたい」って思うんです。
ーー先程おっしゃったなかでは、顧問業務も気になります。
中小企業さんの中には、「顧問弁護士ってすごい敷居が高いだろう」と思ってらっしゃるところが多いんです。「うちにはまだまだそんな相談・トラブルはありません。」と。でも、何がリスクになるのかに気づかないままに進めて行って、やっぱりトラブルが発生して、どうにもならなくなってから持ってこられる案件が多い。だからこそ、顧問弁護士の垣根を低くして、もっと身近に相談してもらいたいなと思っています。
ーー垣根を低くするというのは、どういうことでアピールを?
今、サブスク型のサービスって多いじゃないですか。顧問弁護士もある意味サブスクと同じで、「月額いくらで法律相談や、簡単な業務まで任せられるものなんですよ」と発信していきたいんです。
そして、経営者の身近な相談役として使ってもらえれば、と思います。人は判断に迷うことって沢山あると思います。経営判断の前提として、法的観点からのリスクやメリットをお伝えできれば、経営者もご自身の判断に自信を持てるし、後悔も経ると思うですよね。
ゴルフ好きの理由も「人と話すのが面白い」
ーー休日の過ごし方・趣味は?
休日の半分くらいは仕事ですね。平日は打ち合わせが出来ない方もいらっしゃるので、土日に相談を入れることは多いです。後は書面の作成など、文書を作ることが多いですね。残り半分は家仕事とか。体を動かすことが好きなのでスポーツジムに行ったり、ゴルフに行くこともあります。
ーーゴルフされるんですね。昔からですか?
いえ、40歳を過ぎてからですね。まさに四十の手習いで。この業界、若い頃からされている方が結構周りに多くて、「そんなチャラいスポーツは…」って思っていたんですけど(笑) やってみたら意外と面白くて。
ーーゴルフのどういうところが面白い?
ラウンドしながら、色々な人と話すのが面白いですね。
ーーそこなんですね。趣味でも「人」という言葉が出てくると。
あとは、自分のイメージ通りに実現できたときが、とても楽しいです。それはちょっと事件に似ています。最初に相談を受けたときに「これはこうしてああしたら、ここらへんに着地するな…」っていうのがある程度見えるんです。
ーー弁護士かつ、ゴルフをしている人にしか浮かばない感想ですね(笑)
「弁護士に相談するのに値するかどうか」は考えなくていい
ーー仕事をするときに心がけていることはありますか。
誠実でいたいと思っています。お金を頂く以上は、きちんとそれに見合う、もしくはそれ以上の結果を返しあげなきゃと思っていますので。じゃないとなんのために弁護士に依頼したかわからなくなってしまいますから。そこは一番気をつけています。
とはいえども、事実関係を曲げてまで結果を求めることはしません。それは、自分自身が仕事に対して持っているポリシーに反することですので。
弁護士であれば、「法律に基づいたらこういう結論になりますよ」という説明は大抵の弁護士ができると思いますが、私の場合は、たとえ依頼者の不利益になる情報だったとしても、誠実に説明して、理解を得ようと思っています。そのうえで、どのように進めていくかを協議します。依頼者の紛争の解決にとっても、頼もしい協力者になりたいと常に思っています。
ーー先生の今後の展望について聞かせてください。
弁護士の数が多くなるなか、弁護士業界がどうなるのかと不安になる人も多いですし、不安を煽るような記事も少なくはありません。ですが結局、先程から申し上げているように、トラブルは人と人との間に起きることです。会社間トラブルであっても、意思決定しているのは人の集まりです。なので、そんなに悲観はしていないですね。AIが入ってきて全部なんでも裁いてしまうのではという考え方もありますが、法律を適用すれば紛争が解決するほど、人の考えや感情は簡単ではないし、単純な仕事ではないと思っています。
あとは、新しい分野が増えてきているので、それに対してはどんどん勉強していかないといけないという危機感はあります。例えば仮想通貨とかもそうですし、技術や経済の発展に伴って色々と法的トラブルも変わってきているので、今ある条文や判例では追いつかないところがある。そこは勉強しないといけないと思っています。
ーー法律トラブルを抱えて、悩んでいる方へメッセージをお願いします。
人生相談でもいいので、ぜひ使ってください。「弁護士に相談するのに値するかどうか」は考えなくていいので、話を聞きます。トラブルに見舞われている最中は一番ツラいと思います。
「明けない夜はない」という言葉もあるように、いずれは、必ず辛い気持ちは解消していくと思っています。何か相談頂ければ解決策も見えてくると思うので、深く悩みすぎず、弁護士も含めて誰かに悩みを発信し話して欲しいなと思います。