「愛の反対は無関心」 社会的弱者が自分らしく生きる社会のために人生を懸ける
病院勤務からロースクールへ「弁護士として、困っている人を救いたい」
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
大学は法学部でしたが、卒業後は病院事務職として働いていました。自分に与えられた役割の範囲内で、病気や生活の問題を抱える人のサポートができましたが、それを超えてより自由にサポートできるようになりたいと思い始めました。
そう考えていた頃にロースクール制度が始まりました。旧司法試験は合格率3%ほどの狭き門でしたが、ロースクールを修了すれば新しい司法試験にはほぼ確実に合格できると、当時は宣伝されていました。弁護士なら、役割に縛られず、より柔軟なやり方で困った方をサポートできると考え、病院を退職してロースクールに入りました。
ーーどんな学生でしたか?
大学生の頃はアルバイトに明け暮れていました。西日本で展開していたディスコの系列店で働いていました。印象深いのは月に1度の全社員の総会です。売り上げがいい人が表彰されたり、スタッフが社訓を唱和したりしていて、社員のモチベーションを上げるための会社経営を肌で感じることができました。苦しいときにはモチベーションを上げるために、今でもその社訓を暗唱することがあります。
患者と労働者の支えとなる それぞれが描く未来像のために
ーー弁護士になられてからの注力分野と注力されている理由をお聞かせください。
病院で働いていた経験から医療問題の分野に注力していて、特に患者側の医療問題に取り組んでいます。もう一つは、過労死や労災といった労働分野です。
弁護士の仕事を通じて思ったことは、日本では患者の権利が浸透していないことです。医療を恩恵として受けるのではなく、患者が主体となって、自分の健康状態を知り、どのような医療を受けるか決める権利を確立していく活動に携わりたいと思いました。
労働分野についても、病院で働いた経験から、職場でどのように過ごし、どれくらいの時間働くかは、労働者にとってとても大事なことだと分かりました。ただ、それらは自分ではなかなか決められないのが現状です。そのような状況を改善し、労働者が自分らしく生きられる社会を目指したいと思いました。
ーー患者の権利が浸透していないのはなぜでしょうか?
医療を提供する側が主体であり、患者は医療を受ける客体にすぎないという見方が歴史的に続いてきたからだと思います。そのため、どのような医療を提供するかを決めるのは医療を提供する側であって、患者ではないという考えが浸透していたわけです。
今はそのような関係は改善されつつあり、医療を提供する際には、患者の意思を尊重しようという傾向が出てきました。診療をする上では、患者本人に病名を告知したうえで医療を自ら選択する機会を与えすべきだと考えられており、医療提供のあり方は昔と違ってきています。
ーー最近の労働分野にはどのような動向がありますか?
世界的な動向では、長時間労働の是正が挙げられます。日本では時間外労働が月80時間を超えるかが健康被害の発生を判断する一つの基準となります。しかし最近の海外の報告ではより短い時間でも健康障害が生じると報告されていますし、そもそもの労働時間を短くしようという流れが生まれています。
日本でも過労死の労災認定基準の見直しが検討されています。私は過労死弁護団に所属していますが、弁護団や過労死遺族の会などが声を上げ、意見書を厚生省に送るといった地道な活動が認定基準の改定に繋がっていると思います。
ーー依頼者とのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?
依頼者のお話を、きちんと時間をとって聞くことを心がけています。法的な問いに答えるのはもちろんですが、まずは依頼者が話したいことを話してもらい、どのように問題が解決されればよいと思っているかを明らかにします。その上で、依頼者が目指す未来像に対して弁護士がどうサポートできるかをアドバイスします。弁護士が解決できない場合は、他の公的機関や士業を紹介することもあります。
社会的弱者を囲む「見えない壁」に気づき、向き合う
ーー弁護士として活動してきた中で、特に印象的だったエピソードをお聞かせください。
病院で働いていた時、ハンセン病裁判の原告の方からお話を聞く機会がありました。その方が、自分たちが理由もなく隔離されたうえ、大変ひどい扱いを受けたことを話してくださいました。忘れられないのが「国は謝れとか国は償え、と言いますが、国ってなんでしょうね。国って、あなた方のことですよ」と言われた時です。民主主義国家として私達国民が国を動かしている以上、ハンセン病の方にとっての加害者もまた、私達国民なのだと気づきました。
「患者の権利オンブスマン」というNPO団体で相談員をやっていたとき、ハンセン病の療養施設を見学する機会があったんです。療養施設には、隔離のために作られた、登り越えることができない分厚く高い壁がありました。それを見て、病院でお会いした原告の方が受けた被害の深刻さを理解していなかったと実感しました。
ハンセン病の療養施設にあったような目に見える壁だけではなく、社会には偏見や差別などの、目に見えない壁に閉じ込められている方が大勢います。「愛の反対は憎しみではなく、無関心」という言葉がありますが、社会的に弱い立場にある方々が受ける被害に、無関心であること自体が加害だと思います。ハンセン病の原告の方との出会いを通じて、社会的に弱い立場にある方が自分らしく生きられる世の中を作ることに、人生をかけていきたいと思うようになりました。
ーー休日のお過ごし方を教えてください。
家で過ごすことが多いです。漫画が大好きで、ジャンルを問わずいろいろな作品を読みます。他に、能のお謡(うたい)や舞を学んでいます。お仕舞いといって、舞台で面をつけずに舞うこともあります。
ーーなぜ能を学ぼうと思ったのですか?能を鑑賞する際はどこに注目すべきでしょうか?
司法修習生の頃、能をやっている大先輩の弁護士がいまして、その方から学び始めました。最初は友人と3人で学んでいたのですが、気づいたら自分だけが続けていました。
能は、見るというよりは習うものだと思います。習ってから見たほうが面白いと思います。
ーー先生の今後の展望についてお聞かせください。
引き続き医療と労働分野を中心に携わりたいですが、違う分野にも挑戦してみたいと思います。弁理士の登録もしているので、知的財産の分野も手がけていきたいです。
また、事務所拡大も考えています。色んな得意分野をもった弁護士が多くいた方が、依頼者のどのような案件にも対応できると思うので、難しいですが挑戦したいです。
ーー法律トラブルを抱えて、悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
色々なお悩みがあると思いますが、一体誰に相談すべきなのか分からない方が沢山いると思います。ご自身が生きたいように生きられない、何かしらの壁を感じているーー、そのような方は是非、一度弁護士に相談ください。それが弁護士が解決できる分野ではないことであれば、他の方法がないかを一緒に考えますので、まずはご相談に来てください。