Interview

スピード、プロフェッショナル、ダイバーシティ。エンジニア出身の執行役員が挑む、“強い”組織づくり

Other

  • #エンジニア

スピード、プロフェッショナル、ダイバーシティ。エンジニア出身の執行役員が挑む、“強い”組織づくり

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『「プロフェッショナル・テック」で、次の常識をつくる。』を掲げる弁護士ドットコム。近年は現場のエンジニアから執行役員となり、より経営に近いポジションを担うメンバーも出てきました。二人三脚で弁護士ドットコム事業本部の開発部を牽引し、同じタイミングで執行役員に就任した高橋弘法と福田慎太郎に、これまでの軌跡と現在ふたりが取り組む開発組織づくりについて聞きました。

【Profile】
高橋弘法(技術戦略本部 本部長)
中央大学理工学部卒業後、株式会社VSN(現 : AKKODiSコンサルティング株式会社)に入社し、機械設計者としてプリンタの設計・開発に従事する。その後、株式会社ワークスアプリケーションズでソフトウェアエンジニアとしての経験を積み、2013年、弁護士ドットコムに入社。弁護士ドットコム本部の開発部に配属され、同部長、事業開発部 プロダクト&マーケティングチーム マネージャー、情報ガバナンス本部長などを歴任。2024年4月より現職。

福田慎太郎(技術戦略本部 副本部長)
2007年、アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ株式会社(現アクセンチュア)入社。ソフトウェアエンジニアとして人材系や官公庁のシステム開発に携わる。その後、ウェブメディア運営企業でサービスの開発、マネージメント、新規事業立ち上げなどを経験し、2018年、弁護士ドットコムに入社。2021年4月より弁護士ドットコム事業本部開発部長。2024年4月より現職。

“大人の会社”になるための試行錯誤を続けた5年間

──高橋さんと福田さんが5年前に対談した記事を拝見しました。当時はふたりとも弁護士ドットコム本部の開発部に所属していましたが、いまは技術戦略本部のそれぞれ本部長と副本部長をしておられます。この5年間の社内組織の変化と、それに伴う高橋さんと福田さんのポジションの変化を教えていただけますか?

高橋:すべての経緯をお話しすると、かなり大変なことになるんじゃないかと……。

福田:5年間でけっこう変わりましたからね。

高橋:ざっくりご説明すると、5年前は弁護士ドットコム本部 開発部の部長をしていましたが、その後、管轄する範囲が広がって、税理士ドットコムやBUSINESS LAWYERS(ビジネスロイヤーズ)など、クラウドサイン以外のすべてのサービスの開発部門を担当することになりました。

そうして複数のサービスを管轄する立場になってみると、データガバナンスに関する課題が見えてきて。当社では各サービスの分析用のデータは最終的にひとつのデータベースに集約されるのですが、そこにデータが流れ着くまでの経路がサービスごとにバラバラで、カオスな状況になっていたんですね。

これは標準化したほうがいいだろうということで、開発支援部というCoE(センターオブエクセレンス)のような部門横断的な部署をつくり、僕は弁護士ドットコムの開発部から離れてそちらにフルコミットすることになりました。一方、開発部のほうの後任をどうしようかと考えたときに、最適なのは福田さんだろうと。それまでもずっと二人三脚でやってきたので、「あとはよろしく!」と、まるっとお任せすることにした感じです。

福田:お預かりしました(笑)。

高橋:一通り課題感を潰しきり、方向性を示せたタイミングで、いったん自由な身になり、海外視察など、プラプラさせてもらいました。その後、情報システムやセキュリティの部門を管掌するかたちでサポートすることになりました。

で、2023年4月に福田さんと一緒に執行役員になるのですが、当時、僕はどの事業部にも正式に所属していなくて。やっていること、やりたいことを言語化して、自分の部門をつくったほうがよいと、当時の人事部門の取締役に提案いただいたんですよね。個人的には情報アーキテクチャ領域に興味があったし、社内の有志で細々と活動もしていました。また、さきほど触れた開発支援部が解体されてからは、データ分析基盤のメンテナンスも積極的になされていないようでした。

そこで情報ガバナンス本部をつくって本部長に就任しました。

2024年4月からは技術戦略室という、デザイナーやエンジニアを横断的に支援する部門の室長も兼任することになりました。ちょうど会社が「プロフェッショナルテックカンパニーをめざす」と言い始めた時期でもあったので、いくつかの部門を統合して整理して、技術戦略「本部」とし、会社全体にテクノロジーの恩恵を波及させていこうと。福田さんにもジョインしてもらって、これからさまざまな施策を講じていこうとしているところです。

福田:私は高橋さんから弁護士ドットコム事業本部の開発部を引き継ぎ、最近まで部長をしていました。ただ、やはり高橋さんと同じように税理士ドットコムやBUSINESS LAWYERSの開発組織を事業部横断的に管理するようなったのと、昨年には執行役員も任されるようになったことで、会社組織を見渡し、全体の開発組織をエンパワーメントしていくようなところに興味が移っていきまして。

その頃から全社的なエンジニアの評価制度・給与水準の見直しや、当社初のエンジニアの新卒採用など、コーポレートサイド的な業務も少しずつ担当するようになりました。そんな経緯があったので、今年の春に技術戦略本部へ着任したのも自然な流れだった気がします。いまは技術戦略本部で高橋さんと一緒に事業部横断的な開発部門の評価制度を検討しつつ、全社の開発部門を強化していく方策についても考えています。

──ふたりとも5年前からは業務内容も立場も大きく変わりましたね。ちなみに、弁護士ドットコムという会社自体はこの5年間でどう変わったと感じていますか?

高橋:一番大きく変わったのはクラウドサインのサービス拡大と、それによる従業員数の急増でしょうか。コロナ禍を経て在宅勤務が定着したことも相まって、いよいようちの会社もメンバーの顔と名前が一致しないフェーズに入ったなと感じます。それに伴い組織のあり方も変えていく必要があるのですが、そこはまだ過渡期のような段階ですね。

福田:急いで大人の会社になろうとしている感じがありますよね。もともとベンチャーとしてスタートした弁護士ドットコムも組織が拡大し、さらにはクラウドサインが官公庁や自治体にも使われるサービスに成長するなかで、社会から信頼性を獲得することが急務になりました。

そこでコーポレートガバナンスを強化した結果、一定の信頼性を得ることはできたものの、他方で当時のベンチャーならではのスピード感やパッションが損なわれてしまったように感じる側面もあって。そうしたものを見直しながら社内体制を整えていくことが、いま私たちがいる技術戦略本部の大きなミッションのひとつだと思っています。

弁護士ドットコムが目指す開発組織

高橋弘法(技術戦略本部 本部長)

──まだ技術戦略本部ができて間もないタイミングですが、現時点でおふたりがもっとも注力しているのは?

高橋:やりたいことはたくさんありますが、会社が注力するリーガルブレインとも重なる部分で言うと、やはりデータガバナンスですね。当社には膨大なリーガルデータが蓄積されていますが、いくら良質なデータをたくさん持っていても、それをうまく利活用できなければ意味がない。本来は資産であるはずのデータがただの負債になってしまいます。

たとえばスプレッドシートに週次のデータを並べて眺めるよりも、日次や時間単位で変わっていくデータを見ながら傾向をつかんだほうが適切な経営管理ができますよね。いま以上に会社を成長させるには、そうしたことを可能にする事業部横断的なデータ基盤が絶対に必要です。

そこで今年の7月に、優秀なデータサイエンティストにジョインしてもらいました。本当はデータ設計も自分でやりたかったのですが、自分にはスキルも時間も足りていないので、優秀な人に任せようと。データ利活用のアイデアはたくさんあるので、鉱脈を見つけるつもりでいろいろなことを試しています。

福田:弁護士ドットコムが今後より成長していくために開発者の人数が現状の3〜5倍必要になるとすると、その規模に耐えうる組織設計をしなけばならないし、教育制度も必要になってくる。そもそもそれだけの人を採用できるのかという問題もあります。まずはそうしたことから取り組んでいこうと考えています。

──これからおふたりがやろうとしていることには、適切な人材の採用や配置が不可欠だと感じました。求める人材像があれば教えてください。

高橋:チームとしての仕事ができる人ですね。最近、業界や業種を問わず、在宅勤務を廃止して従業員をオフィスに復帰させたい会社の思惑と、柔軟性を求める従業員の願望がバッティングしているといった言説をよく目にします。当社もエンジニア職ついてはほとんど在宅勤務で働いているので、マネジメントする立場の人間としてその問題について考えたことがあって。

僕の結論としては、在宅勤務は今後も活用してもらいたい。ただし、対面でのコミュニケーションの必要性を感じた時は、その手段を取れる人であってほしい。地方在住や家庭環境的にその手段が取りづらい人は、補える振る舞いを求めたいと思っています。在宅・出社を問わず、メンバーと協調しながらチームに貢献できるような人と一緒に働きたいですね。

福田:それに加えて言うと、おそらく会社が求める人材像の根幹の部分は昔から変わってなくて、社会課題を解決する意欲のある人、テクノロジーに興味がある人、チャレンジ精神の旺盛な人。高いパフォーマンスを発揮して会社に貢献してくれたうえで、それを通じて社会をより良くしたいと思っている人が理想です。

グローバルなテックカンパニーをめざしたい

福田慎太郎(技術戦略本部 副本部長)

──それでは最後に、開発部や会社をこの先どのような組織にしていきたいか、おふたりが頭の中に描いている組織のあり方をお聞かせください。

高橋:開発組織のあり方は、大きく変える必要があると思っています。たとえばプロジェクトを垂直立ち上げできる仕組みを取り入れたり、ネットワークのインフラ構築をコードを用いて自動的におこなえるIaC(インフラストラクチャアズコード)を共通基盤として整備したり。あるいは、toBのプロダクトを開発する際に悩まされがちな権限管理を抽象化したり。

そうした開発の「型」ができれば、これまでプロダクトアウトまでに半年かかっていたのを3カ月に短縮できるし、横展開も可能になります。その意味で、各事業部のゆるい自治は担保しつつ、横軸の共通基盤を模索していくフェーズなのかなと思いますね。

福田:私の考えは大きく分けて3つあります。1つは高橋さんの言うように、全社的なナレッジやデータを活用して、スピーディな動きができる開発組織をつくること。

もう1つはAIをはじめとする先端技術や、個々がもつ専門性を発揮してプロダクトづくりを推進するプロフェッショナル集団であること。

最後の1つは個人的な願望に近いのですが、ダイバーシティの推進ですね。これまでも多様性を大事にして組織づくりをしてきたつもりではあるものの、実際に今の開発部門が多様性に富んだ状態かというと、必ずしもそうとは言えないなと感じていて。

ただ、今年の秋にベトナムで採用した新卒エンジニアが入社してくるのに加え、来春からは国内の新卒エンジニアも入社してきます。少しずつではありますが、確実に組織の多様性は増しているので、そこをもっと広げてグローバルに展開できるようなテックカンパニーをめざしていきたい。

そのための地ならしとしても、カルチャーづくりや組織づくりの必要性を強く感じているところです。