特定の食品を食べたことが原因で、アレルギー反応が起きる「食物アレルギー」。おう吐や意識障害といった症状が現れ、最悪の場合には死につながる危険性もある。文科省が2007年に発表した資料によると、食物アレルギーのある小中高生は全国に約33万人もいたという。その後も、食物アレルギー体質の人は増え続けていると見られる。
このような中、飲食店のメニューや食品の商品表示では、食物アレルギーの原因となる原材料を表示するようになってきている。だが、そこには思わぬ落とし穴があるという。たとえば、レストランのメニューの表示に該当する食品がないことを確認した上で注文したが、調理器具を介して他の食品の成分が混入してしまい、それを食べてアレルギーを発症するという事故が実際に起きたそうだ。
上記の事例のように、飲食店の料理を食べて、食物アレルギーを発症し、重篤な症状が出た客は、店側に対して治療費や慰謝料を請求することは可能なのだろうか。好川久治弁護士に聞いた。
●「飲食店には、食品等のアレルギー物質の表示は義務づけられていない」
好川弁護士はまず、「飲食店で料理を注文して、店から飲食物の提供を受ける関係は、飲食物提供契約です」と説明する。
「つまり、提供された飲食物に、生命身体を害する欠陥があって、病気や怪我をした場合は、契約違反に基づく損害賠償請求が可能です(顧客の生命身体の安全に配慮すべき注意義務違反)」
「たとえば、飲食店の衛生管理が不十分で食中毒を発症したり、飲食物に針など危険物が混入していた場合が、その典型」(好川弁護士)という。では、食物アレルギーの場合はどうなるのか。
「アレルギー物質も、アレルギーを有する方にとっては、生死にかかわる重大事故が発生する可能性があります。したがって、そのような方は、飲食物の提供を受ける際、店側に十分な配慮を期待していると思われます」
ということは、料理を食べて発症したアレルギー症状となった客も、飲食店に対して損害賠償請求をすることが可能だということでよいのか。
「しかし、広く一般大衆にサービスを提供する飲食店にとって、どこまで配慮すれば注意義務を尽くしたことになるのかというのは、非常に難しい問題です」
「飲食店には、食品衛生法が定める食品等のアレルギー物質の表示は、義務づけられていません。したがって、メニュー等にアレルギー物質が含まれているかどうかを表示しなかっただけでは、責任を問われることはないでしょう」
●店が損害賠償責任を負わなければならない場合
つまり、食物アレルギーの場合は、危険物が混入したり、食中毒が起きたりした場合と違って、店側の責任を追及することは容易ではないということだ。では、提供された料理によってアレルギー症状を発症した客は、泣き寝入りするしかないのか。好川弁護士は次の2つのケースを示し、「例外」について説明する。
「客から『重篤なアレルギー症状を発症する可能性があるので、特定の食材を使用していないか』という問い合わせを受けたにもかかわらず、店は『その食材を使用していない』と間違った説明した」
「客から『調理器具を通じて少量でもアレルギーを発症してしまうことがあるので、十分に注意してほしい』と頼まれ、店側が注意をすると承諾したにもかかわらず、調理の過程で特定食材が混入した」
このようなケースで万一事故が発生したとしたら、「店側は契約違反に基づき、客に対して治療費や慰謝料などの損害賠償責任を負わなければならないでしょう」(好川弁護士)ということだ。
最近では、学校給食でも食物アレルギーの事故が頻繁に起きている。外食や給食は本来、楽しい行為だろう。こういった事故を防ぐためのルール作りが急がれる。