中国・上海の食品加工会社が保存期限の過ぎた鶏肉を混入させていたことが明らかになり、日本の企業にも大きな影響が出ている。この食品加工会社から肉を仕入れていた日本マクドナルドは7月25日、中国製チキンを使った商品の販売を中止したことを発表した。
発表によると、同社はこの食品加工会社から、国内で使用する「チキンマックナゲット」用の肉の2割を輸入していたが、7月21日に販売を中止。その後、中国製チキンに対する消費者の不安に対応するため、全面的な販売中止に至った。すべてタイ製のチキンに切り替えたという。
ファミリーマートもこの食品加工会社の肉を使用していたため、7月21日に「ガーリックナゲット」などの販売を中止している。
今後、中国の食品加工会社は法的な責任を問われることになりそうだが、こんな食品を輸入した業者についてはどうなのだろうか。輸入業者に対して、消費者が「不愉快な思いをした」などと言って、損害賠償を請求することはできるのだろうか。好川久治弁護士に聞いた。
●輸入業者が問われうる「3つの責任」とは?
「輸入業者が問われる可能性がある責任としては、(1)販売先への契約責任、(2)不法行為責任、(3)製造物責任の3つの責任が考えられます」
それぞれどうだろうか?
「(1)の契約上の責任は、契約書の内容によります。
一般的に、輸入業者と販売先企業との間で交わされる契約書には、輸入業者が対象商品について、『品質規格基準』に合致することを保証し、これに反した場合には、商品の回収・廃棄・交換や、損害の補てん費用などを賠償することが定められています」
今回のような場合は、さすがに「品質基準」には適合しない?
「食品の場合、一般の流通に適する品質かどうかは、契約の重要事項とみなされます。
報道によると、中国の食品加工会社では、消費期限がかなり前に切れたような、カビが生えている鶏肉を使用したり、工場内で床に落ちた鶏肉を機械に戻したりするなど、普通では考えられない粗雑で不衛生な取扱いがされていたようです。
これは、一般消費者の通常の感覚からすると、一般の流通に適さない食品にあたると言えるでしょう」
すると、輸入業者の責任を問えるのだろうか?
「問える、と言いたいところですが、通常は輸入業者が必要な注意をしていたことを証明すれば、責任を負わないという契約を結んでいることが多いです。
今回、問題となっている工場は、国連の食品衛生管理基準(HACCP)を採用するなど一定の評価を得ていた工場のようです。
輸入業者も中国国内の品質安全に係る検査機関の検査を受け、検査証明書の確認をしているでしょうから、輸入業者は必要な注意義務を尽くしたとされて、責任を免れる可能性があります」
●「生命、身体、財産を侵害する危険性」があったか
それでは、(2)不法行為責任と(3)製造物責任は、どうだろうか?
「『不法行為責任』については、こちらも輸入業者が必要な注意をしていて、故意・過失がなかったのであれば、責任を問うことは難しいですね。
一方で、『製造物責任』は、輸入業者の過失ではなく、輸入商品に『欠陥(通常有すべき安全性を欠く状態)』があることを消費者側で証明できれば、責任を追及できる可能性があります」
その証明はどうやってやればいいのだろうか?
「製造物責任法でいう『欠陥』とは、人の生命、身体、財産を侵害する客観的な危険性があるということです。商品に対する嫌悪感、不安感だけでは、製造物責任法の『欠陥』があるとは言えません。
今回の場合、中国の工場の粗雑、不衛生な取扱いの実態が明るみになりましたが、日本に輸入されたどの商品に、賞味期限切れの鶏肉が使用されたかまでは明らかになっていません。さらに、現時点では、消費者に食中毒などの被害が発生しているという報告もありません。
現状では、消費者が輸入業者に対し、健康被害のおそれや不安などの精神的損害の賠償を求めることは難しいと思います」
好川弁護士は現在明らかになっている情報を踏まえて、輸入業者の責任について、このように結論づけていた。