安倍晋三元首相が亡くなった銃撃事件によって「新興宗教と金」に多くの関心が寄せられている。
逮捕された山上徹也容疑者は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に献金を繰り返し、家族が破産に追い込まれたことが事件の動機であると供述しているという。
狙われるのは大人だけではない。全国の大学では、親元を離れて間もない若者たちをターゲットとして、サークル活動に形を変えた新興宗教団体が魔の手を伸ばす。特に夏休み期間は勧誘が活発になるという。
青山学院大学では、公式サイトで「サークルのふりをした危険な宗教団体に注意しよう!!」と学生に注意を呼びかけている。その中で「『統一協会(原理運動)』と言われた団体の後継団体や『摂理』などと呼ばれるもの」と名指しで宗教団体を危険視している。
特に今年は、4月に成人年齢引き下げがあったことから、今まで以上の懸念がされるところだ。これまで18歳の学生であれば、親の同意ない「寄付」を取り消せたが、それができなくなるというのだ。
●カルトへの入信を瀬戸際で阻止
国立遺伝学研究所の川上浩一教授が、カルト宗教に入信させられそうになり、すんでのところで「救出」したという大阪大学の元教授のエピソードをツイッターで紹介した。
藤田先生、成人年齢18歳に下がったので「(新入生が)カルト集団に取り込まれた場合に、救い出すために家族(親)の法的手段が限られる」ことも懸念されていました。
— Koichi Kawakami, 川上浩一 (@koichi_kawakami) July 19, 2022
成人年齢18歳で、巷ではAV関連ばかり問題視されていましたが。カルト団体は、取り込みやすくなった、とほくそ笑んでいるかもしれません。 https://t.co/9aRwinCX50
大阪大学では新入生の入学時と夏休み前、カルト宗教団体のターゲットは当の新入生であることを説明するという。元教授が授業で説明すると、所属サークルの活動内容に不安を感じた学生の1人から相談を受けた。調べたところ、大学がリストアップしていた非公認サークルであることが判明したそうだ。
すぐさま大学と連携して、学生をサークルから脱会させたという。1週間後には「聖書の勉強会」と称した泊まり込みの合宿が予定されており、「洗脳」が成立してしまうおそれがあったと指摘している。
川上教授は、民法改正による今年4月の成人年齢引き下げによって、これまで多くの新入生が守られていた「未成年者取消権」の対象から18歳以上が除外されたことを背景に、「成人年齢18歳で、巷ではAV関連ばかり問題視されていましたが。カルト団体は、取り込みやすくなった、とほくそ笑んでいるかもしれません」と言及した。
多くの大学では、まさに夏休みが始まったばかりだ。消費者問題にくわしく、神奈川大学で教授として学生に接していた鈴木義仁弁護士に、カルトをめぐって大学生が注意すべきことを聞いた。
●昨年までだったら18歳でもカルト宗教への献金は「取消」できた
——カルト宗教や新興宗教への献金・寄付も、未成年者取消権の対象となる契約に含まれるでしょうか
献金や寄付は、法的には贈与ということになります。贈与も契約ですから、未成年者が、親権者の同意を得ないで献金・寄付をおこなった場合、その金額が未成年の小遣いの範囲を超えるような金額であれば、民法5条の未成年者取消権を行使して、贈与契約を取り消すことができます。
——4月からの成人年齢引き下げで、大学の18歳新入生も「成人」になりました。親の同意を得ずに「壺」などの宗教的な物品を買った際のお金や、クレジットカードを使ってキャッシングした現金を寄付した場合、取り返すことは難しいでしょうか
未成年者取消権が行使できる場合と比べると、返還を求めることは、簡単ではありません。
ただし、物品を買わせたり、現金を寄付させたりするときに、自称「霊能者」から「霊感」などを根拠として、「悪霊が憑いていて、このままでは、あなたや家族が病気になったり、亡くなったりするかもしれない」などと、大学生に今のままでは「重大な不利益を与える事態が生じる」として不安をあおり、「この壺を買えば悪霊が去る」などと、壺を買えば重大な不利益が回避できるかのように言っていた場合には、消費者契約法4条3項6号に基づき、取り消すことは可能です。
また、消契法の要件にあてはまらない場合でも、勧誘に違法性が認められれば、贈与契約自体を取り消すことができなくても、民法90条の「公序良俗違反」による契約無効を理由とする返還請求や、不法行為に基づく損害賠償請求をおこなうことも考えられます。
●手持ちのお金で買えないものを勧めてくる輩は相手にするな
——ほかにも大学生が陥りそうなカルト宗教と「契約」をめぐって、どのような問題が考えられるでしょうか
最近では、SNSを利用して「カルト団体」の正体を隠して近づき勧誘をしてくることが多いようです。親密な関係を築きながら、おもむろに「宗教」的な話に引きずりこんでいくようです。
少なくとも、団体の成り立ちや勧誘してきた人の氏名、責任者の氏名をくわしく問いただすこと、少しでも変だと思ったらきっぱりと断ることが大切です。
また、気をつけなければいけないのは、宗教だけが「カルト」ではなく、自己啓発やビジネス(マルチ商法)などの「カルト」もあるということです。カルト宗教に限らず、自分の手持ちのお金では買えないものを勧めてきて、借金してでも買えなどと若者を誘ってくるのは、すべて「インチキ商法」だと思ってきっぱりと断るようにしましょう。