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輸血でHIVに感染――「献血した男性」と見抜けなかった「日赤」の責任は?
HIVに感染した献血者の血液が検査をすり抜けて患者2人に輸血され、このうち1人がHIVに感染していたことがわかった

輸血でHIVに感染――「献血した男性」と見抜けなかった「日赤」の責任は?

エイズウイルス(HIV)に感染した献血者の血液が、日赤の検査をすり抜けて患者2人に輸血され、このうち1人がHIVに感染していたことが11月下旬、明らかになった。HIVの感染初期はウイルスや抗体が微量であるため、検査をすり抜けたとみられている。感染者の血液が輸血に使われたのは、2004年に日赤が対策を強化して以来、初めてのことだという。

日赤は「感染初期には、最も鋭敏な検査方法を用いても(HIVを)検出できない期間がある」として、検査前の「問診」でHIV感染リスクが高い行動をとった人を洗い出し、該当者の献血を回避している。

しかし報道によると、献血した男性は献血前の「問診」に事実と異なる回答をしていたという。もし正しい回答をしていれば、今回の事態は避けられた可能性があるが、この男性は何らかの法的責任を問われることになるのだろうか。また、結果的にHIV感染を防げなかった日赤も、責任を問われるのだろうか。齋藤裕弁護士に聞いた。

●なぜ「事実と違う回答」をしたのか?

「輸血をした男性は、過失傷害罪(刑法209条)に問われる可能性があると思います。また、民事での損害賠償責任を負う可能性も高いと思います」

齋藤弁護士はこのように述べる。なぜだろうか。

「問診に事実と違う回答をしたということは、自分がHIV感染リスクの高い行為をしたことを知っていたということだと考えられます。そうであれば、輸血を受けた人にHIVを感染させるリスクも予想できたと思われるからです」

こうしたリスクを知りながら、それでも献血を行うことは、違法と見なされる可能性があるわけだ。

●日赤が責任を問われる可能性も

一方、日赤の責任についてはどうだろうか?

「日赤については、製造物責任法上、不法行為法上の損害賠償責任が認められる可能性もあると思います」

どうしてだろうか?

「今回、輸血で感染した方は、献血から1年間使用することができる血漿(けっしょう)製剤を輸血され、感染しました。

もし、HIVのウインドウ・ピリオド(検出されない期間)を考慮し、保管検体を再度チェックしていれば、輸血による感染を防止することができた可能性があります。

そうであれば、損害賠償責任も否定できないと考えられます」

医療側には厳しい見方にも思えるが、こうした際の責任について、何か参考になる判例などはあるのだろうか?

「東大病院梅毒感染事件の最高裁判決は、医師の注意義務について、『(医師は)危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される』と判断しています。

この判決では、医師は梅毒感染の危険性があるかどうか判断するのに必要な情報を問診するだけではなく、緊急ではない限り、リスクのない給血者から輸血すべきだと判断しました」

裁判所はこのように、医療従事者の注意義務を厳しく判断しているようだ。

齋藤弁護士はこのように述べたうえで、「なお、輸血で感染された方は、こういった賠償とは別に、生物由来製品感染等被害救済制度等による救済を受けることができる可能性があります」とつけ加えていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

齋藤 裕
齋藤 裕(さいとう ゆたか)弁護士 さいとうゆたか法律事務所
刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。労災・労働事件、個人情報保護・情報公開に強く、新潟市民病院医師過労死訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブル相談ハンドブック』(新日本法規)など。

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